誰しも、自分と言う名の仮面をつけ、自分を演じている。
それが良いのか悪いのかなんて分からない。
仮面の自分も、仮面の下の素顔も、自分には変わりないのだから。
けれど時々、疲れてしまう。
仮面の下の本音は、隠し続けなければいけないものだから。
曲がり角で誰かとぶつかるなんて、運命的な出会いだと思う。しかし残念なことに、相手は美少年ではあったが、
ロベルト・エメリヤノフのクラスメイトだった。
御陵 王輝の持っていた画材が手から滑り落ち、廊下に広がる。ロベルトはその場に尻餅をつきながらも、芸術科で絵画専攻の性か、落ちた絵に手を伸ばすと傷付いた箇所はないかを確認した。
ロベルトと一緒に歩いていた
美崎 岬が、絵を見て固まったロベルトに不思議そうな顔をしながら手元を覗き込み、茶色いたれ目を細めた。
写真のように精巧な美しい絵は、上から黒い絵の具でグチャグチャに塗りつぶされていた。一瞬、誰かの低俗な嫌がらせだろうかとも思うが、王輝の怯えたような表情を見るに、自分でやったのだろう。
一度描いた絵の上から、全てを台無しにするように黒で塗りつぶす。どんな気持ちでやったのか、岬にもロベルトにも何となく分かるような気がした。
人には誰しも、言う事の出来ない心の闇がある。誰にも見せる気のなかった絵は感情をストレートに表しており、ロベルトは茶色いつり目を伏せると、絵を王輝に返した。
「別に、そんな顔しなくても、誰にも言うつもりはないよ」
「……理由を、聞かないの?」
細い王輝の声に、ロベルトは困ったように赤茶色の髪を後ろにかきあげると呟いた。
「聞いて欲しいなら聞くけど、僕じゃ御陵の力にはなれないと思うんだよね」
「そんな冷たいこと言わないの!」
すかさず岬がロベルトの袖を引っ張り、王輝に慈悲深い笑顔を向ける。
「話す事で気が晴れるなら、私で良ければ話を聞くわ」
王輝の唇が少しだけ動き、そのまま言葉を紡がずに閉じられる。岬は変わらず笑顔だったが、ロベルトは小さく溜息をつくと王輝のアンバーの瞳を覗き込んだ。
「御陵はこの絵、どうするつもりなの?」
「捨てようと思ってるけど……」
「なら、捨てる前にちょっとだけ、気晴らししてみない?」
ロベルトは筆を取ると、黒く塗りつぶされた間から見える王輝の絵を隠すように、色を重ねていった。原色を重ね、毒々しいまでに華やかな七色で彩っていく。
「これなら、知ってる人が見ても、御陵が描いたってすぐには気付かないだろ」
「それ、どうするの?」
不安そうな王輝と不思議そうな顔の岬に、ロベルトは薄ら笑いを向けると、鞄の中から小さなカードを取り出した。
「ストレスは小出しに発散してかないと、いつか爆発するよ」
廊下にポツポツと貼られた極彩色の絵には『表せない気持ち、燃やしませんか?』という角張った文字と『Carnevale』と書かれた小さなカードが貼り付けられていた。
カードの裏には『たまったストレスをこっそり解消する集い。暇を持て余した寝子島高校二年生オンリー』と綺麗な文字で書かれていた。
これはいったいなんだろう?
そう思いながら、次に貼られた絵に視線を移す。相変わらずの極彩色の絵には、先ほどとは別の言葉が書かれている。廊下中に貼られた全ての絵には、別々の言葉が書かれていた。
『他人を気にして言えない言葉、吐き出したほうが楽じゃない?』
『誰が書いたとか、詮索しないからさ。書いて廊下に貼ってくれれば、最後に回収して燃やすよ』
『一緒に燃やしてストレス発散したい人は美術室まで! 美少年大歓迎!』『←誰でも歓迎するわ』
最後のやり取りに思わず吹き出すと、華やかに彩られた廊下を見渡した。
シナリオガイドにロベルト・エメリヤノフさんと美崎 岬さんに登場していただきました!
ありがとうございました!
カードに書かれたCarnevaleという言葉は、ある集いの名前です。
詳しくは該当コミュニティをご参照下さい。
・Carnevale
→二年生限定の同好会ですが、シナリオ自体はどの学年の方でもご参加下さい。
NPC
・御陵 王輝(みささぎ おうき)
寝子高芸術科2年6組
日本とフィンランドのハーフ
写真のような絵を描くが、綺麗なだけの絵に過ぎない
実際に見たことのある物以外は描けない
場所は北校舎1階、時刻は18:00過ぎです。
表せない気持ちは、絵でも文字でも構いませんが、必ず燃やせるもの(燃やしても良いもの)に書いてください。
・表せない気持ち
廊下にペタっと貼っても良いですし、誰にも見せないつもりならそのまま持っていても構いません。
廊下に貼ったものに関しましては、閉門(19:00)前に回収して、王輝の絵と一緒に燃やします。
・変装その他
いつもの自分では表すことの出来ない気持ちを表すため、普段とは違う自分を作ってみることも可能です。
変装をしたり、違った喋り方をしたり、偽名を使うのも良いかも知れません。
→必須ではありません
・燃やす場所
星ヶ丘にある王輝の家の庭になります。家までは御陵家の車+タクシー(王輝が手配します)で向かいます。
子供だけで火遊びはダメですが、お手伝いさんがバケツ装備で見守っていますので、ご安心下さい。
基本的に玄関と客間と庭にしか通しませんが、お手伝いさんも王輝も監視しているわけではありませんので、フラフラ探索することも可能です。
ただし、悪戯をしたり物を壊したり盗ったりした場合は相応の対処をされます。
二階の部屋では妹の御陵 優妃(寝子高芸術科1年7組)がピアノを弾いています。
彼女と接触しても構いませんが、重度の人見知りですし、ビビリです。
驚かせるとかなりの確率で泣かれますので、ご注意下さい。
御陵 優妃(参考:Pioggia Capriccioso)