Geheime Maske｜リアクション

Geheime Maske

　絵に書かれた言葉は、塔尾松生にとって渡りに舟だった。丁度、処分に困っていた燃やしたいものが溜まっていた。退屈な授業中や、暇な時にこっそり描いていた落書きが、溜まりに溜まって鞄をズシリと重たくしていた。
　持っていても仕方がないけれども、捨てるにしても折角端正込めて描いた落書きなのだ、ゴミ箱にポイというのもなんだか抵抗がある。誰かに見られてしまうのも少し恥ずかしいし、かと言って一々丸めて捨てるのも面倒臭い。ここに貼るなら、誰が描いたかなんて誰も気にしないだろうし、このまま燃やしてくれれば処理に困っていた落書きもなくなって、鞄も軽くなって、一石二鳥だ。
　そう言えば、どんな落書きを描いたんだっけ。
　鞄からプリントの束を取り出し、松生はふと気になって一枚一枚捲ってみた。空を飛ぶ鳥の絵は、今日描いたばかりだから覚えがある。大きな剣を持ったゲームの主人公と、頭に薔薇の花飾りがついたヒロインの落書き。ゲームのスキル構成についてのメモ書きは、途中から面倒臭くなったのか、大分適当になっている。可愛いんだか気持ち悪いんだかよくわからない謎の生物と、担任の泉竜次先生のデフォルメによる四コマ。今度の日曜、十時からバザーというメモに、テストの範囲のメモ書き。バザーは良いとして、テスト範囲のメモはこんな所にあったのかと、自分のいい加減さを呪いたくなってくる。更に出て来たのは、やたらとリアルな画風で描かれた寝子サンマのデッサン画。
　一杯溜めすぎなのはともかくとして、このデッサン画は何のために描いたのか、最早思い出せない。大体、リアルに描くと限りなくただのサンマになる。手と眉毛がついた、二足歩行のサンマ……追いかけられたら、怖すぎる。
　授業中に、何やってんだか。
　自分自身に呆れながら鞄をあさり、まだ出てくるプリントに苦笑する。授業中、そんなに落書きばっかりしてるかな。とボンヤリ考えながら落書きに視線を落とす。
　鉛筆で丁寧に描かれた、桜と海が印象的な、寝子島ではないどこかの詳細な風景画に、どことなく松生に似ている年の離れた男性の落書き。……本当に、何でこんなのを描いたのだろう。
　兄も、地元も、もう見たくなんかないと思っていたはずなのに、どうしてこんなに詳細に描かれているのだろう。他の落書きとは違うタッチで描かれた落書きに、松生はキュっと唇を噛み締めると、他の落書きの間に隠すようにして挟んだ。
　こんなの描くくらいなら、寝子サンマさんを描いてた方が断然マシ。都市伝説化しそうなリアルサンマさんを描いていた方が全然良い。だって、こうして見た時に、リアルサンマさんならまだ笑えるでしょ？　兄ちゃんも地元も、ただ心が辛くなるだけでしかないんだから。
　ちょっと分厚いけれども、重ねて貼ってしまおう。どうせ最後には他の絵と一緒に燃やすんだから、良いよね。
　そう思い壁に貼ろうとした時、開いた窓から入り込んだ一陣の風に気をとられ、プリントを持った手が滑った。バラバラと音を立てて落ちたプリントは風に舞い、廊下に散乱した。