Geheime Maske｜リアクション

Geheime Maske

　武道は飛んできたプリントを空中でキャッチすると、呆然とした顔で立ち尽くす松生に目を向けた。上履きのラインからするに、一年生の子だろう。武道は手早く散らばったプリントを集めると、松生に人懐っこい笑顔を向けた。
「なんか放心しちゃってるみたいだけど、大丈夫―？」
「……あっ……大丈夫、です」
　はっと我に返った松生が頷く。眠たそうな茶色い瞳が武道の持っている絵の束に向けられ、何かを言いかけた時、元気な声が廊下中に響き渡った。
「武道ちゃんセンパーイ！！」
　バタバタと走って来た真央が、武道の腰元に飛びつく。背後からの急襲に、武道の腰に十のダメージが入る。
「寝子高放課後秘密倶楽部……違った、カルネヴァーレを知りませんかなのだ！　真央ちゃん取材したいのだ～！　……って、武道ちゃんセンパイナンパ中だったのだ！？　真央ちゃんうっかりなのだ～！」
　ペチンと額を叩く真央だったが、武道はそれどころではない。真央程度なら、別に飛びつかれても問題はないはずだった。真央は小さく軽いため、全力で走って来て飛びつかれても受け止められるだけの筋力は十分ある。でも、背後からの不意打ちは卑怯だ。
「あれ？　武道ちゃんセンパイどうしたのだ？　お腹痛いのだ？」
　その場に蹲る武道に、真央がキョトンと首を傾げる。まさかの攻撃に崩れ落ちた武道だったが、すぐに回復すると立ち上がった。背後からの飛びつきは反則だと注意しようとして、真央の大きな瞳が自身の持つ絵に向けられている事に気付き、ヘラリと笑う。
「頼まれたんだよ。なんか、俺みたいにチャラけてる笑い仮面の奴に」
「仮面……ってことは、カルネヴァーレなのだ！？　その人、どこに行ったのだ！？」
「さあ？　頼んだぞ少年！　って言ったきり、煙のごとく消えちゃったんだよネー」
　なんて、流石に嘘だって分かるかな。と思ったのだが、真央は武道の予想の斜め上を行く純粋さで緑色の瞳をキラキラと輝かせた。
「凄いのだ！　やっぱり寝子高放課後秘密倶楽部のカルネヴァーレなのだ！　真央ちゃん、絶対に取材を申し込むのだ～！」
　やる気に目を光らせる真央の隣で、松生は困ったように首を傾げていた。
「ところで、コレはどうするの？」
　武道が書いてある内容を見ないように注意しながら、プリントを松生に差し出す。松生が躊躇いながらも受け取ろうと手を伸ばし、真央が急にダっと走り出す。何に釣られて走り出したのかと振り返った先では、黒髪の男の子がボンヤリと絵を見上げていた。