Geheime Maske｜リアクション

Geheime Maske

　そこまで思い悩んでいるわけではないけれども、それでも淡い憧れと現実の自分とのギャップに時々妙に切なくなる時がある。
　黒依アリーセは可愛らしいピンク色のドレスを着たアイドルの絵を見ながら、小さく息を吐いた。フリルとレースがふんだんにあしらわれたドレスは、女の子なら誰でも一度は憧れるだろう。小さい時に見ていた絵本やアニメに出てくるお姫様は、いつも煌びやかな衣装を纏って、王子様に手を差し伸べられているのだから。
　けれど、こんな服は自分では着られない。憧れは憧れのまま、静かに灰にしてしまおう。壁に貼るのはなんだか気恥ずかしくて、アリーセは絵を鞄に仕舞った。美術室へと向かおうとして、背後から掛けられた声に振り返る。
「アリーセちゃんもカルネヴァーレの取材に行くなのだ～？」
　普段と変わらない元気一杯の真央が、輝く笑顔でアリーセを見上げる。
「カルネ……ヴァーレ？」
「そうなのだ！　寝子高放課後秘密倶楽部のカルネヴァーレなのだ！　真央ちゃんは今から、美術室に突撃取材に行くのだ！　アリーセちゃんも、一緒に行くのだ～！」
　真央がアリーセの腕を掴んで意気揚々と歩き出す。美術室には行こうと思っていたので、特に異論はないけれども、何だかちょっと可笑しな気分だった。それにしても、寝子高放課後秘密倶楽部とは、何なのだろうか。
「頼もうなのだー！　ここにカルネヴァーレはいらっしゃいますかなのだーっ！」
　道場破りのような威勢の良さで、真央が美術室へと入って行く。それに引き摺られるような形で入ったアリーセは、窓際で佇む小柄な少年と目が合い、思わず会釈をした。
「にゃふ！？　もしかして、若菜ちゃんセンパイ、カルネヴァーレなのだ？」
　真央が走り寄り、譲と取りとめのない話をしていた若菜がぶんぶんと首を振る。
「王輝ちゃんセンパイ、カルネヴァーレを知りませんかなのだ」
「僕は知らないけど、真央ちゃんはどうしてそんなに探してるの？」
「取材がしたいのだ！　寝子高放課後秘密倶楽部の実態に迫るのだ！」
　記者としての使命なのだ！　と、胸を張る真央に、王輝が苦笑する。
「うーん、ここにはまだいないみたいなのだ。でも、真央ちゃん諦めないのだ！　どこなのだカルネヴァーレ！？　真央ちゃんに取材させてくれなのだ～！？」
　来た時と同じ勢いで、真央が美術室を後にする。残された面々は廊下に反響する元気の良い声を聞きながら、ほんの少しだけ表情を緩めたのだった。