Geheime Maske｜リアクション

Geheime Maske

　その日、大荒郎は物凄く焼き芋が食べたかった。どのくらい食べたかったかと言うと、何故今が初夏なのか、四季にいちゃもんをつけたくなるほど食べたかった。秋ならば、そこらへんを歩けば大量の落ち葉を確保でき、すぐに焼き芋を作る事が出来るのに、今は伸び盛りの青草が太陽の光を受けてすくすくと育っている季節だ。瑞々しい若葉は少年少女のように潤っていて、千切って燃やしても良い燃料にはならないだろう。
　汁気溢れる草花の若々しさと将来性に変なエロスと嫉妬を感じつつ、大荒郎は考えた。どうすれば、労力少なく燃料を集められ、美味しい焼き芋を食べる事が出来るのか。じっくりと2分程考えた結果、閃いた。適当に焚きつけるような張り紙を壁に貼っておけば、きっと不思議な力が働いてどんどん燃料が集まってくるだろう。そうと決まれば、後は芋を買いに行くだけだ。
　大荒郎の頭の中は、ホカホカの焼き芋の事でいっぱいだった。

　あらあら、珍しい招待状だこと。
　早坂恩は片頬に手を当ててCarnevaleのカードを手に取ると、鞄から黒いレースの仮面を取り出した。周囲に人がいないのを確認してからつけ、装飾品も外す。
　こんなに楽しそうなCarnevale主催の催し物に参加しないなんて、勿体無い。どうせなら、参加した皆が楽しめるようなものにしたい。そう考えていた時、恩の目に見慣れた長身が映った。相変わらずなんだかよく分からない物が詰め込まれた鞄を肩にかけて、壁の絵を凝視している。恩はそっと近づくと「ピエロ？」と声を掛けた。大荒郎の綺麗な灰色の瞳が恩に向けられ「計画通りデス」と呟く。
「計画？　コレ、ピエロが主催なの？」
「焼き芋パーティーへヨウコソ！」
　サツマイモをグイグイと押し付けられ、恩は受け取りながらも首を傾げた。
「ピエロとロベルトちゃんの他に誰がいるの？」
「はぁーぇ？　何で急にロベッタ？」
「だってこれ、ロベルトちゃんの字でしょ？」
　絶妙な下手さ加減の『美少年大歓迎！』の文字を指差し、恩が「ね？」と同意を求める。大荒郎が暫らく黙って絵に書かれたメッセージを読んだ後で、ポンと手を打つ。
「そうか……ロベッタも焼き芋ハフハフしたかったのか……」
「うん、多分違うと思うわ」
　きっと大荒郎とロベルトは違う目的で動いているのだろう。そう直感した恩が否定するが、大荒郎はちっとも人の話など聞いていない。
「あの子ちんまいからナー。焼き芋十個くらい食べさせれば少しは大きくなるだろうか」
「そんなに食べれないでしょ。でも、別の目的で集まる人が結構いるかもね」
「皆で熱々の焼き芋を食べて、心も身体もホカホカで脱ぎ脱ぎパーティー……」
「にはならないけど、お芋はもう少し買ってきたほうが良いかもね」
　大荒郎の脳内に広がりかけていた熱帯夜セクシー焼き芋パーティーの妄想をサクっと砕いた恩が、魅惑的な微笑みを浮かべる。
「さぁ、お芋を買いに行きましょう、ピエロ」
　有無を言わせぬ力を持った笑顔に、大荒郎は思わずコクンと頷いていた。