【七夕】ポニーテールとＳＵＭＯ｜リアクション

【七夕】ポニーテールとＳＵＭＯ

　二回目の御剣刀と志波武道の取り組みが始まる。先の取り組み以上にふたりは燃えていた。
「……こういう取り組みは大歓迎なんですけどね」
　矢萩咲はズズと湯のみをすすりながら、ため息をついた。
　ポニーテールの精はふふと意味ありげに微笑んでいて、咲はその表情に癒やされた。
「ポニーテールさんもお菓子どうですか？」
　と言ってはみたが、お茶請けはなにかないかと尋ねてポニーテールの精に用意してもらったものだ。
「そうね、私もいただこうかしら」
　それを気にすることなくポニーテールの精も饅頭に手を伸ばす。
　咲にとって七夕の精は憎むべき第一級変質者だったが、ポニーテールの精には最大限の敬意を払っている。
　理由は簡単。
　咲もポニーテール至上主義であるためだ。
　その精霊となれば崇め奉って当然の存在である。
　咲は『満足してもらおう』『満足する方法を探ろう』という下心なしに、ポニーテールの精とのお茶を楽しむのだった。
「あ、あの、ポニーテールの精さん！」
　そんな彼女たりの元に新たなポニーテール信者がやってくるのはもう少し後のこと。

（おふたりとも頑張ってください……！）
　刀の右手が唸る。武道の左手が鞭のようにしなり、それを弾き返す。
　真剣なふたりの邪魔にならないよう鬼崎あやめは心のなかで祈った。
　もともと気性の優しいあやめにはどちらか片方を応援するということは出来なかったが、このふたりの真剣さを見ているとことさらその思いに拍車がかかる。
　息を呑んで成り行きを見守っていると、武道が刀の浴衣の奥襟を掴み、投げ飛ばす体勢になった。
　相撲というより柔道だが……どうやら問題はないらしい。
　ついに勝負が決まるのか。
　あやめが息を止めて結果を待つ。
　男子学生が安々と宙を舞い、地面にたたきつけられる。
　一瞬の華麗な技であった。
「あれ？」
　けれど、倒れているのは武道の方。
　あまりの早さであやめにはわからなかったが、刀が武道の襟を掴み返したのだった。
　あやめは健闘をたたえ懸命に拍手を送り、周りからも同じように拍手が溢れた。
（本当に素晴らしい試合でした……）
　あやめはしばらく余韻に浸っている。
　そしてふとふたりの姿を思い出す。
「ポニテって新鮮ですね」
　いつもとは少し違う同級生の姿。
　それから自分の姿。
　水色の生地に淡い菖蒲が描かれた浴衣に、ポニーテール。
　あやめもやはり女の子。ちょっとしたオシャレで気持ちが明るくなった。
「……いっそうの事、今日のお兄ちゃんとの七夕デートはポニテでいきましょうか？」
　言葉が空（くう）に消えていく。その虚しさが、『借金が返せて意中の人と恋仲になれますように』元々は神社にそうお願いをするためにやってきたことを思い出させる。
「お願いしにお参りに来た結果がこれですよ！」
　虚しさを振り払おうと、ひとりツッコミを入れてテンションを上げるあやめ。
「なんですか、相撲って！　体力なしの私にそんな事出来る筈ないでしょう！」
　どんどんヒートアップしていき、ついには周りにも聞こえるような大声になる。
「これ終わらないとお参りも出来ないなんて、いーやー！」
　視線が集まった。
　あやめは「ご、ごめんなさい」と頭を下げる。
（うう……）
　恥ずかしさと惨めさで涙が滲みそうになった。
（でもしょげくれてても仕方ありません！）
　けれどそんなことには負けない。不幸体質（？）の彼女はそんなことではへこたれない。
　あやめはポニーテールの精の元に駆けて行き、
「ポニーテールの精さん！　男子を誘惑できるポニテを教えてください！」
　地面に頭を擦り付け、見事なジャパニーズ土下座を披露した。
　それからあーなってこーなって「奉納されたお米があるわよ」というありがたいポニーテールの精のお言葉も頂き、あやめは塩むすびを、皆に差し入れるのだった。