【七夕】ポニーテールとＳＵＭＯ｜リアクション

【七夕】ポニーテールとＳＵＭＯ

「茂くん、お疲れ様でした」
　試合が終わってすぐ土俵から降りてくる海原茂に青龍寺琴理はタオルを差し出した。
　真っ青な浴衣から伸びた白い手。その手に持った白いタオルを、茂が受け取り、汗を拭いた。
「ありがとう」
　薄っすらと微笑んだ茂。琴理はその笑顔にひるんでしまいそうになり、俯く。
　けれど、勇気を振り絞って、言葉を紡いだ。
「……良ければ、少し辺りを見て回らない？」
　心臓が耳の側に引っ越したのかと思うほど、うるさい。
　昔の彼女であれば、ここまで緊張することもなかっただろう。
　自覚というのは、厄介なものです。琴理は辟易した。
「ああ、構わない」
　けれど茂はなに変わらぬ様子で琴理の誘いを受ける。
「ありがとう」
　だから琴理も、ごくふつうを装って、笹林の中に入るのだった。
（本当は嬉しくてたまらないんですけどね……）
　頬が染まるのを見られないように、ザクザクと茂る草を踏んで、琴理は進んでいく。
　履きなれない下駄のせいですぐに茂が追いついてしまうが、それはそれで構わなかった。
「茂君が生まれた日も、こんな風に葉っぱが生い茂ってたのかしら？」
　ついからかうような口調になってしまったことに、琴理は言ってから気づいた。
「……笹は生えていなかっただろうと思う」
「確かにそうね」
　しかし茂は生真面目に、くいと眼鏡を上げた。
　気にしてないだろう、ということもだけれど、それよりもいつものその仕草に琴理はほっとしたのだ。
　やはり相撲よりも、この方が茂君らしいなと。
（それから、茂君らしいといえば……）
「おちこぼれ姫に七夕の世界編なんてあったかしら？」
　目を丸くして硬直する茂。
「……さぁ」
　ふふと琴理は笑った。
　やはり茂君は茂君だ。
　あまりからかいすぎても良くない。そう思って琴理は茂から視線を外し、笹を眺めた。
（笹があるなら短冊もあるかしら？）
　ふと気が付くと、探すまでも短冊が見つかる。
　願いごとを書いて、笹につけよう。
　そう思って近くの短冊を覗いてみるが、
『兄と、連弾が出来ますように』
『歌って踊れて戦えるアイドルとして活躍できますように。　眠兎』
『マダムちゃんが元気になってみんなとお茶会出来ますように』
　どれもこれも願いが書かれたものばかりだった。
「茂くん、短冊なんて持ってないわよね……？」
　ダメ元で琴理は茂に尋ねてみる。
「いや、持ってるぞ」
「え？」
　と、意外にも持っているというではないか。
　琴理がどうしてと言う前に、茂は慌てて理由を告げた。
「書こうと思っていたんだが、なにも思いつかなくてな。良かったら使うか」
「ありがとう」
　琴理は薄青色の短冊とペンを受け取って、
『充実した毎日を過ごせますように』
　と記した。
　本当の願いは胸の中に納めて、琴理は林を見渡す。
　百本に一本ほどの割合で、黄金に輝く笹がある。
（なら、川には星が流れていたりするのかしら？）
　そういえばまだ川をまじまじとは眺めていない。
「ね、茂くん、川も見に行きましょう？」
「……ああ」
　