もうひとつの卒業、桜色のにゃあ｜リアクション

もうひとつの卒業、桜色のにゃあ

散りゆく花も、咲く花も・３

　うにゃうにゃと甘えるにゃんこたちに、修は、しゅば！　取り出したのはニボシです。ええ彼はいつも持ち歩いているのです、こんな時のための緊急ニボシを。
「さすがだねー、修くん」
「備えあれば、ってね。こんな貴重な体験をさせてくれるんだ、お礼のひとつもしないとさ」
　あおいにも手渡して、それぞれの手のひらからはぐはぐすると、にゃんこたちの桜色の毛並みがぶわわと波打って、
「あっ、またなにか見えてきたよ！」
　指差した先にほわん、ほわんと生まれた波紋の揺らめきが、ふたたび思い出を呼び起こします。
　いい夫婦の日に島中で催されたイベントへ、ふたりで参加しました。まだカップルというわけではありませんから、並ぶ豪華賞品目当てではありましたけれど、ふたりで挑んだゲームはコンビネーションが要であり、協力し合ううち絆も深まったように思います。
「ロッククライミング、なかなか大変だったが楽しかったな」
「次の日、全身筋肉痛だったけどね」
「はは、俺もだよ。で、あっちのは……」
「あ。風船割りの……」
　ふたりの身体で風船をはさみ、ぐぐぐと身を押しつけ合って、ぱーん！　なんて嬉しハズカシなゲーム。風船を割ると、中に入れた質問を相手にすることができました。たくさんの質問に答えられたら好成績、素敵な景品をゲット！
　あおいの顔が朱色にぽわん、色づきます。
「これ、ちょっと恥ずかしかったな～」
「まあね。でも楽しかったよ」
「修くん、つぎつぎ質問するんだもん」
　ちょっぴり唇をとがらせて言うあおい、けれど目はおだやかに笑っています。衆目の中で抱き合うという気恥ずかしさもありながら、それでいて修と共有する思い出はあざやかで、色褪せない記憶なのでしょう。プールに揺れる映像の中、彼女の笑顔はやっぱり華やかでした。
　にゃあお、ふにゃあ。ぱしゃ、ぱしゃり。
「雪……」
「うん。あの日のことも、覚えてるよ」
　雪舞う季節に。次なる波紋が映し出すのは、白雪の下をさくさくと歩くふたり。この日は彼女へローストビーフのつくり方を指南しました。クリスマスに彼女自身の手で、弟妹たちへ振る舞うためです。後にその試みはおおむね上手くいったと聞かされてほっとしましたけれど、それ以上に、彼女といっしょになにかを作るだとか、いっしょになにかを成し遂げるだとか、そういった経験のすべてが修にとって、素晴らしい幸福でした。
　料理をばっちり仕上げた後は、映画を見たり。足湯に浸かったり。ふたりならいつだって、楽しみは尽きません。
　それに。
「……修くんはいつも、私の悩みを見抜いちゃうんだよね」
　寝子島から遠くはなれての新生活を前に、家族へ強い自分を見せたくて、心配させたくなくて、彼女の重ねた努力を修は知っています。上手くいかなくて苦悩したことも、不安も、いつも彼女を見つめてきた修だからこそ気が付きました。力になりたいと思いました。
　そしてその思いはおそらく、ふたりがおたがいに抱くものであったらしいことも。
「あのお守りのおかげで、俺も成し遂げることができた。前に進むことができた。あらためて、ありがとう、あおい」
「そんな……私こそ。修くんにはいつも助けられて……」
　だから、ありがとう。そう言う彼女ははにかんで、頬をほんのりと赤く染めていて。愛らしくて。愛おしくて。いつまでだって、見ていたい。
　ぶにゃー、うにゃー！
「……おっと、悪いね。思わず見入ってしまって、さ」
「ほったらかしにされて妬いちゃった？　ごめんねー猫ちゃん。ほら、ナデナデナデ～」
　喉元をくりくりやってごきげんを取ると、桜猫はたちまち気持ち良さそうにふにゃんととろけて、ふたりは思わず、くすり。