もうひとつの卒業、桜色のにゃあ｜リアクション

もうひとつの卒業、桜色のにゃあ

散りゆく花も、咲く花も・２

　ぽちゃん。ぱちゃん。波紋が広がるたび、思い出が浮かび上がります。ぱしゃん、ぱちゃん。
　たとえば、体育祭。ぱしゃ、ぱしゃり。
「寝子高の体育祭はいつも趣向がこらされてて、個性的なんだよな」
「そうそう。毎回ビックリしちゃうよね。でも、それが楽しいっていうか」
「ああ、そのとおり。……あおいの応援にはいつも励まされていたな。力をもらったよ」
「私こそ！　疲れちゃってもうダメだーっていう時に、いつも助けてくれたよね」
　ぱしゃ、ぱしゃり。ちゃぷん、たとえば、桜花寮でのちょっとしたお料理教室。
「思えばいろんなのを教わったなあ。お料理に、お菓子に……」
「ずいぶんと上達したよ。あおいは。もちろんそれは俺の力じゃない、あおいの努力の結果さ」
「修先生の教え方も良かったんだよ、きっと。おかげで少しずつ、自信もついてきて……でも、もっと上手になりたいな」
「なれるさ。もちろん」
　たとえば、そう……バレンタインに、チョコレートを交換しあったことも。ふにゃあ、にゃおー！
「あの時のチョコ。ちゃんと美味しかった？　本当に？」
「ああ、もちろん。あおいの気持ちが嬉しかったし、味だってさ。ちゃんと美味かったよ」
「そうかなあ。修くんのチョコにくらべたら……って、どうしてもね」
「あおいはまず、自分に自信を持つことだよな。確かに最初は下手くそだったけど」
「あー、言ったな！」
「ははは。でもだからこそ、上達を目に見えて感じられたんだ。あおいは料理が上手くなってる、間違いないよ」
　ぽわ、とあおいの頬が赤く灯ります。
　そうして水面には不思議な映像がふわり、ゆらり。どうやら他のお客さんには見えてないのか、あるいは別のなにかが見えているのか。ともかくこの思い出は、ふたりだけのものです。
　にゃあ、と桜猫が鳴いてすりすりすり、ふわふわな頭を修の頬へこすりつけると、
「これは……野々たちと甲州の勝沼へぶどう狩りに行ったときだな」
「ああー、楽しかったよね！」
　一転、あおいの瞳はきらきらとかがやきます。ころころと変わる表情の変化に、修が幾度和まされたことでしょう。不安を跳ねのけ吹き飛ばしてくれて、助けられたことでしょう。
　きらきらかがやく水面で、甘いぶどうを頬張るあおいの思い出もまたまぶしくきらめきます。
「鈍行にゆったり揺られての列車旅も味わい深かったし。秋の甲州は、美しかったな」
「うんうん！　紅葉にはまだちょっと早かったけど、ほんのり色づき始めのあの感じも、良かったよね。それに川面がきらきらしてて、すごく綺麗で……」
　がたごとがたたん、おやつを食べてトランプで遊びながら、仲の良い友人同士で過ごすひと時のあたたかさ。おだやかさ。
　それに、今もともすれば口の中へよみがえりそうな、あの甘くてジューシーなぶどうのお味ときたら！
「美味しかったねえ……」
「ああ。美味かったな……」
　ぶどうそのものはもちろん、ぶどうを使ったスイーツも。変わり種のフルーツピザまで、あますことなく楽しみました。ああ、とろけるような思い出です。
「ヤギのエサやりなんかもしたな。素晴らしい体験だったよ」
「ふふ、修くん動物好きだもんね。こう、ちっちゃい男の子みたいに目をきらきらさせてさー」
「俺、そんな顔してたか……？」
「してたよー、あはは！」
　にゃあお、と鳴き声。二匹の桜猫は相も変わらず肩の上。ヒゲをさわさわ、ぴくりと震わせたら、水面に揺れる映像もぱしゃんと移り変わってゆきました。まだまだ、振り返るべき思い出は尽きませんから。