アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

　マッチョのフィギュア、とある意味普段と変わらぬ尾鎌蛇那伊は、いつものように準備体操から入った。
「……それは、必要なのか？」
　江戸時代の侍の人形となった楪櫻が、やんわりと蛇那伊に突っ込む。
　櫻は、ろっこん＜姫鶴一文字＞で召喚した日本刀が、手に馴染むサイズだった事に感嘆した。
　先日負った目の下の傷も今はなく、襲い来る玩具の対応に追われても体に疲労はない。

　しかし玩具は無限増殖でもしているのか、いくらでも現れる。
　姫鶴一文字の冴えた光が命を奪う事なく、救いとなるのは僥倖だが、味方の助けが無ければ正直厳しい。

「あら、普段の体じゃないんだから、この体がどれだけ早く正確に動くか把握して、普段とのギャップを埋めなきゃ戦えないわ」
　見た目の暑苦しさとは裏腹に、涼しい顔で答える蛇那伊に、櫻も腹を括った。
「なるほど……それでは私も、慢心する事無く出来る事を着実に成そう」
　後方の敵の気配を察した櫻の刀が、鮮やかな弧を描く。

「さあ～て、ここからはあたしも本気でいくわよ？　皆、敵と間違えられたくなかったら、距離とってね？」
　殴る蹴る殴る蹴る突く蹴る突く払う！
　すでに戦っているアイや櫻に混じって、蛇那伊の筋肉（？）が玩具達のボディに雨あられと降り注ぎ、残骸の小山を築き始めた。

「ふんっ」
　ロボに身を変えた秋霜華音は、硬いボディを持つ玩具を狙い、直立で膝の屈伸のみで行う、いわゆるヤクザキックで引き倒す。
　そのままDies irae（怒りの日）の調べに乗せて、玩具の胸に体重を掛ければ。
　それはそれは恐ろしい傲慢な審判者の裁きのもと、玩具は原型を失った。

　――たとえどんな姿と化しても、僕にはわかるんだ……美少年の放つそのオーラが！

　こけし。そうロベルト・エメリヤノフが身動き取れないこけしになったのは、ひょっとしたら普段の行いのせいかもしれなかった。
「うん？　何でしょう、このコケシ。
　そこはかとなくショタコン臭……某知人先輩に似ている気とかするんですけど」
　魔法少女りぃ☆フィギュアとなった葛城璃人は、足元に転がるマトリョーシカこけしを見つけて屈みこんだ。
「具体的に言うと、２年芸術科のロベルト先輩っぽい……」

　――ぎくぎく！

　悲しいかな、逸らせない視線。覚悟を決めて、ついに白状する。
「ロベルトっぽいじゃない、本人だよ！」
「あー、やっぱり～？」

　そんな折、美少女戦士風のフィギュア、吉野夕弥が通りかかる。
「あっ！　夕弥さん！　見てみてくださいよ、このコケシ！」

　こちらはこちらで、何故ばれた？　この男の娘、只者じゃないや。

　美少女戦士姿に、羞恥を覚えてコソコソしていた夕弥も、やっぱり観念して足を止めた。
「とりあえず、僕達が元に戻る方法を考えなくちゃね」

　見目麗しい後輩達に拾われて、内心喜んでいたロベルトだったが。
「……ああ、ならいい方法があるのです♪　メットル・ユヌ・ヴォレー！」
　りぃの手の中に、ステッキが召喚される。そして。
「そぉい！！」
　カッキ――ン☆

　気付けばロベルトは、「野球しようぜ、ロベルトはボールな！」ぐらいのノリでレールを挟んだ、りぃと夕弥に打ち合われる事になる。
　運が良きゃののこに当たるんじゃね？　という軽い気持ちで。
「いいのかな、先輩なのに……」
「いいんですよ、夕弥さんだったら物凄く躊躇しますが、ロベルト先輩なら少しも良心の呵責を感じませんし！」
　夕弥の戸惑いを、フルスイングで吹き飛ばすりぃ。

「俺、し～らない。もしも流れエメリヤノフ先輩に当たっちゃう人がいたら、ごめんね……とうっ！」
「ふー、いい汗かいたなぁ♪」
　美しいものにはトゲがあるという事を、またしても身をもって知るロベルトであった。