アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

　忍者フィギュア、島野夏帆は巨大手裏剣を背負っていた。
　幼馴染で腐れ縁の内藤武諭が正々堂々真正面から敵を受け止める隙に、こっそりと背後に回る。
　武諭は白い甲冑を着込んだ、騎士となって戦いに挑む。

「汚いは、褒め言葉だ……！」
　武諭の後ろから、玩具の駆動部分を狙い打ちにする夏帆。
　だが突然の事に戸惑いがあった武諭は、盾を取り落とした。
　拾う時間はない。
「こんな所で……！」
　敵の攻撃に思わず左手を前に翳した時、武諭に宿った神魂が力を発揮する。

　＜唯一無二の盾＞が、武諭の前に物理的バリアを展開した。

「あら、やるじゃない♪」
　武諭が初めて発現させた、ろっこん。
　しかし夏帆の賛辞は、彼女の性格を知り尽くす武諭には、嫌な予感しかしない。
　そしてその予感は、的中していた。
　玩具どころかカラスにまで挑発行為を繰り返し、ヘイトを一身に引き付けた夏帆は、それら全てを武論に押し付けた。

「っておいィ！？　何トレインしてるわけ！？」
「あら？　ちょっと持って来すぎたみたい？？」
「ぬおおぉぉぉ！！！」

　窮地に陥る二人の前に、重装備を背負った美少女フィギュアの、忍足春が立ちはだかった。
「さあ、カラス達！　私を啄ばんでくださいませ！」
　春の恍惚とした表情に、周囲の熱い空気は逆に凍りついた。
「……ハァハァ……春はイジメられて興奮する、いやらしい子なんですぅ……」
　無論、カラスには遠慮は無い。
　さんざ突きまわされた春は、しかし服が裂け露出度が上がった分だけ、＜毛皮を脱いだヴィーナス＞の影響で硬さを増す。

「色んな意味で凄いな……」
　春の痴態を目の当たりにして、同じ壁である武諭はやっとそれだけの言葉を搾り出した。

　ビスクドールとなった登栄明璃寿は、周回しているジェットコースターに、直接手を触れる事無くこけしを落とせないかと考えた。
　明璃寿はこけしの特殊能力が、クローネ側に知れた場合の妨害を懸念していた。
「しかもこちらが触れてしまったら、その者を帰してしまうのじゃな。
　一方クローネは、直接触れずに能力を消せると考えていいじゃろう……あまりにこちら側が無力なのじゃ」
　だが転がっていた笑顔こけしの鬼崎あやめの＜リリスの微笑み＞による魅了にかかって、じかに拾い上げたが、あやめが望まない限り、明璃寿が現実世界に強制送還される事はない。

「ふむ、深読みのしすぎじゃったか」
　明璃寿は紐を引く動作を取り、＜どこでも金だらい＞でコースターのうさぎの上を狙って金盥を召喚する。
　うまくいけば、あやめを一緒に転送……と思ったが無理だった。盥は派手な音を立てて、うさぎにぶち当たると、更に大きな音で地面に激突した。

　猫至上主義の恵御納夏朝は、テオの言葉にクローネに対して激しい敵意を燃やしていた。
　苛々をぐっと堪え、夏朝はロケットパンチ搭載の猫型ロボットとしての、本分を全うする。
　味方に誤射しないよう細心の注意を払いながら、こけしを持った人がコースターに接近するための道を切り拓く。
「猫パンチ！　猫キック！　ロケットパーンチ！」
　時には硬い自らの体を、盾として夏朝は獅子奮迅の活躍を見せていた。
「邪魔するのなら、片っ端から殲滅する……！　さあ、ここは僕たちに任せて……早く！！」

　緊迫した事態の中でも、カラスのリアルな縫いぐるみに変身した青龍寺琴理はマイペースを貫いていた。
「遊園地にこけし？　珍しいわね。
　そうだ、ののこちゃんはサンマさんが好きなのよね。サンマさん似の、こけしはないかしら？」
　ほわほわしたその態度から、運よく味方から狙われる事も無く、すいすい玩具の群れを縫って歩く琴理は、ある意味大物だった。