アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

▼ミラーメイズ

「こ、これは悪い夢や……全然目え覚めへんし、どうすりゃええんや！　わーん！」
　叫ぶのは、６月に寝子高に編入してきたばかりの、マリベル・ロイスだ。
　うさぎの縫いぐるみだった事が災いしたのか、カラスに追いたてられている。
「こうなったらベタにほっぺつねって……ってなんや！　ウチの指がない！」
　“ひと” のマリベルは、状況が全く飲み込めていなかった。
「あ、あわわわ！　い、いやぁ～、女の命の髪毟らんといて～！」
「こっちへ！」
　マリベルを手招く、ヴァイオリンを構えた女の子の縫いぐるみは、結城日和。
　作り物のヴァイオリンが深い音色を奏で、聞く者の感情を穏やかなものに置き換える。
　追っ手が動きを鈍らせた隙に、日和はマリベルの手を取って、ミラーメイズに向かって走る。

「玩具とは言えヒーローなら、すべき事はひとォつ！
　戦闘員の相手は、この鬼面タイガー（テレビねここで放送中の特撮ヒーロー）が引き受けたッ！」
　周辺で張っていた、海士野甲が少女達の殿を勤める。
　背中のボタンを押せば、ベルトが発光する。
　光物が好きなカラスの習性を利用し、甲は自分にカラスの目をひきつけた。
　同時に、甲が放ったタイガービームフラッシュで、玩具達はひるんでいる。

「僕が囮として適任のはず……僕が奴らを引き付ける、その間に皆は目的を果たして！」
　しかし肘を後ろからくいと掴んで、希望戦士ニャンダムRの白衣のマッドサイエンティストキャラに身を変えた、斑鳩遙が甲を鏡の迷路に引っ張り込んだ。
「君も来るんだ。テオを見つけなければ、事態は収束しない。
　幸い複雑に入り組んだ、ここは逃げ隠れするのにもってこいだ」

「あらあら……これ、私なのぉ？」
　一方、興味津々に入り口で鏡を覗き込むのは、楽々浦宮八。彼女はビスクドールへと姿を変えていた。
「まるで小人になった気分だねぇ、うふふ♪」
　悪くないと、くるりと回って豪奢なビロードのスカートを翻す。

「……ば、バルツァさんっ……いらっしゃいませんか……？」
　薄紅色のドレスを纏うビスクドールの桜之雪も、光り輝く鏡の迷路を進む。
　奥へと向かう雪が、調達してきたお菓子を齧れば、ふわりふわりと花が舞い、彼女の道に絨毯が降り積もる。
　迷わないための目印だった。

　そんな雪の足元を、花を蹴立てて縫いぐるみが駆け抜ける。
「なんじゃこりゃー！！！　ウチ、うさぎになってるやん！！」
　鏡で己の姿を視認した、マリベルが絶叫した。
「……あ、あらら？　誰かなぁ誰かなぁ？」
　再び迫る追っ手に、宮八もオタオタしている。
「説明はあと、皆奥へ逃げよう」
「うん……ええい！」
　日和が宮八の背中を押し、雪が目晦ましに呼んだ花嵐で、敵が混乱しているうちに、一行は更に奥へと進んだ。

「おーい、テオー！」
　猫又の縫いぐるみになった、民谷鋭二もミラーメイズ内でテオを探していた。
　二股に分かれた尾が左右に振れて鏡面を叩き、手には割った鏡の破片を武器として持っている。
　そよそよと髭をそよがせれば、その先を白いカラスの縫いぐるみの、宮祀智瑜が羽ばたいていた。
「えーと、敵じゃないよな？　テオのヤツ見なかったか？」
「いいえ。私はカラスは光物が好きなので、クローネが居るかもと思って来たんですけど……」
　智瑜はクローネに会えたら、どうしてこんな事をするのか、尋ねてみたかった。
「人は玩具じゃないのに……！　あ、今は人形ですけど」

　そうこうするうちに、マリベル、日和、甲、遙、宮八、雪が集まった。
「一人では手間どる、手分けして探さないか。何かあったら、この割れた鏡を目印にして集合しよう」
　遙の提案で、彼等はペアを組んで探索を続けた。雪は花を、智瑜は白い羽根を、その他は鏡の破片を道に置きながら。
「安心して。これだけの鏡があれば、ベルトの光を乱反射させて目くらましに使えるよ」
　頼りになる甲は、マリベルと共に。

　歩きながら、遙は昔を思い出していた。
　廃墟が好きで、出向いては写真を撮っていた友人は、自殺してもう居ない。
　死の真相を知りたい……。

「バルツァさん……どうかご無事で。ののこさんの救出も、上手くいっていますように、です……」
　祈る雪の声で現実に呼び戻され、細く息を吐くと、遙は鏡の迷路に呼びかけた。
「テオ、いないのか？」