アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

▼寝子島イリュージョンランド

　左目には黒い眼帯。海賊風味の出で立ちのオウムの縫いぐるみ、オリガ・ドラグノーヴァは夜空に舞うカラス達の目を忍んで飛び上がると、遊園地の高い位置から見下ろした。

　その更に下にあたる、静かな場所。
　もっふりした黒馬の縫いぐるみに姿を変えた鉄衛守は、黒猫縫いぐるみの日向透と共に眼下の混乱を傍観していた。

　そこでは等身大サンマさん縫いぐるみとなった、冴木竜司が絶叫していた。
「うわぁ！　いつの間にか俺、サンマさんになってるぅぅ！！！　どいひー！！！
　しかもなんだか、すごく今、テンションおかしィィィい！！！
　うぉぉ！！！　そこの可愛らしい縫いぐるみ！　俺とデートしないか！
　どいひー！！　速攻断られた―！　でもむしろ、やる気に満ち溢れるようだ！
　これがサンマさん力！　パネェ！　どんだけポジィティブ！？
　俺は今なら、どんなことでも叫べるぜ！
　そう、幼女LOVEな俺だけど胸に貴賤なし！　どんなおっぱいでも愛せるぞー！！！」

　全く、どうしちゃったって言うんだ君は。
　ろっこん＜性春パワー！＞を発動させた竜司は、そのままの勢いで突っ走り始めた。
　要するに、すれ違う皆に醜態を曝さんと、移動を始めたのだった。
　まあ竜司君お友達いっぱいいるから、後で思い出して泣きたくなったら、誰かの胸を借りるといいよ。
　雄っぱいの方をな！
「どいひ――！！」

「傍観していましょうか。皆、頑張っていますし、状況把握する役が1人くらい居ても問題ないですよね？」
　緑目を衛守に向け、透は言う。
「寝子島とは随分と奇怪な場所のようだな、今も多数の若者が巻き込まれている様子だ。
　こんな場所に、お嬢様を一人で住まわせるなど……」
「お嬢様？」
　問われ、衛守は口ごもる。
「……いや、何でもない」
「そうですか、神様とやらにも困ったものです。ただこういうのは結構楽しいですね。
　全く。人も神も、皆が皆、それぞれ愚かで安心する」
　自身も含めて。

「……なんだかおかしな夢……」
　ぺたんとお尻をつけて座り込んだまま、鹿嶋洋美はぼんやりと辺りを見回す。
　玩具は玩具を追い掛け回し、蜂の巣をつついたような騒ぎだ。
「……足元がおぼつかない、歩きにく……って何これ！？　私、羊のぬいぐるみになってる！？」

「こいつぁ穏やかじゃねえな……もれいびが喚び出されてるって事は、もしやお嬢や組長も……！？」
　神無組の構成員、松崎竜平も例によって姿が変わっていた。

「おっと、危ねえ！　ぼんやりしなさんな」
　洋美に襲い掛かった玩具を、竜平は咄嗟に粉砕する。
　巻き散らかされた玩具の残骸と、それを作った小山のような逆三角形のパンダの輪郭……。
　洋美は我に返って、頭を下げた。
「ご、ごめんなさい……突然の事でボーっとしちゃって！
　私、鹿嶋洋美です。助けてくれて、ありがとうございます」
「！！？」
「あの、あなたのお名前は？」
　小首を傾げる、もこもこ桃色の羊。まあるいボタンの目。

　たっぷり一呼吸置いて、竜平はようやく答えた。
「……松崎だ……怪我ぁねえか？」
「はい、お陰様で」
「そうかい、そいつぁ良かった。洋美……いや洋美さん。離れないよう、しっかり付いて来なさい」
「はい！」
　どこかためらいがちに差し出されたパンダの左手を、羊はほっとしたように握り返した。

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