アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

▼コーヒーカップ

「テオちゃん、どこにいっちゃったのですー？」
　狐ぬいぐるみに姿を変えた、迪シルベがほてほて歩く。
　夜の遊園地のイルミネーションは、キラキラ綺麗でシルベの胸も期待に膨らむが、今はそんな事を言っている場合じゃない。
「誰か手掛かりになる情報は、お持ちでないですー？」
　大きな尻尾をふりふりしつつ、周囲に尋ねる。
　しかし皆が皆、やるべき事に一生懸命でシルベの問いに答えられるものは誰もいない。
「発動するか分かりませんが、何もしないでいるよりはいいですよね？」
　気を取り直しシルベはコーヒーカップ付近に狙いを絞り、＜みんなの道シルベ＞を発動させた。

　彼女のろっこんは、求める物がある方角を差すように指が動く。
　但しそれは、寝子島内の移動していない “モノ” に限られていて、うまく発動するかどうかシルベも自信がなかった。テオも玩具になってしまっていれば、或いはうまくいくかもしれないが。
　果たしてどうだろう？

　シルベの懸念を他所に、つつ……と指がコーヒーカップの中央を示す。
　シルベは思いがけない反応に、瞬きを繰り返した。
「行って見ますかー」

　小さなうさぎの縫いぐるみを抱えた、うさぎの縫いぐるみが走る。彼女は遠野まほろ。
　うさぎを守るように併走するパンダの縫いぐるみは、従兄の淡島直行だ。

「遊園地綺麗だね。直兄ぃは、ここに遊びに来た事があるのかな？」
「いや……家族とは来た事がないんだ。小さい時は両親が忙しかったし、荒れてる時期もあったから」
　気遣わしげに見上げたまほろに、直行は気持ち口角を持ち上げる。
「今日まほろちゃんと来れて、少し嬉しかったりするんだ」
　従兄妹はどちらからともなく、手を繋ぐ。

「テオがね、心配なの……」
「大丈夫、ちゃんとテオも探してあげるから。でも、俺はまほろちゃん優先だからね。
　さあ、離れないように、ちゃんと手を繋いで」

　まほろが信じてくれるなら、俺は強くなれるから。

「しかし探すと言っても、どこを？」
「コーヒーカップを見に行くつもり」

　――くるくるまわるコーヒーカップ、テオも目を回していないといいけれど。

　たどり着いたコーヒーカップの、ど真ん中。
　まほろの懸念は、見事的中していた。

『クローネのヤツ――！！　覚えてろーぉお！！！』

　黒い羽根を頭に突き立てられたまま、延々と回転し続けるカップのハンドル部分に、灰色猫のこけしの姿を認めて、まほろと直行、そして導かれてやって来たシルベは一寸顔を見合わせ。

　そして彼女等は、そっと手を伸ばした。
『……てめえら……ののこを先にしろって言ったろ……？』
　相変わらずの上から目線。エラソーなその声は弱々しいけれど、どこか嬉しそうにも響く。

　【遠野まほろ　＆　淡島直行　＆　迪シルベ　コーヒーカップにて、テオこけし救出成功！！】

　直行が用心しつつ引き抜いた羽根は、何を呼ぶわけでもなく足元に落ちた。