アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

▼メリーゴーランド　１

「またろっこんの暴走かよ！　て言うか、何で俺がこけしなんだ！」
　回転する、メリーゴーランドの脇。
　地面に転がって、ぐらぐらしながら吉祥寺黒子はわめいた。
　黒い流線型ボディのこけしは、ぺろりと舌を出している。

「もう、しつこいわね！」
　そんな黒子の傍を横切った、黒猫の縫いぐるみの口から飛び出したのは、愛らしい少女の声。
　巧みに玩具達を同士討ちさせながら来た、花風冴来だ。
　けれど新たな追っ手は、いくらでも現れた。
「元のイリュージョンランドに戻して！　どうして私の邪魔をするのよ！」

「お、あんた人間か？　やっぱ “俺は幸運だ” ぜ。なあ！　助けてくれないか？　動けねえんだ」
　黒子の懇願に剣呑な視線で応えた冴来は、拾い上げた黒子を、縫いぐるみ達に叩きつけようと振りかぶる。
「お、おい！？」
「知らない！　フツウを守れ？　馬鹿みたい。
　望まない力を与えて私を化け物にしておいて、そんな責任を負わせないでよ！」

「困っているようだな、謎の猫さんよ！」
　ふいに冴来の前に立ちはだかったのは、２体のクマ。
　鈴木修一郎と抱っこされてて、巻き添えを食った彼の縫いぐるみマリアンヌだ。

　ストロベリーブロンドの髪と翡翠色の硝子の瞳を持つビスクドールのレティシア・ル・テリエも「かわいそう」だからと縫いぐるみ達を傷つけないよう、物陰に隠れながらやって来た。
「テオさんは、ここにはいないようですね」

「何よ、あなた達！」
「まあ落ち着きたまえ。ぬいぐるみが自分の意思で、このような狼藉を働くわけがない。
　何故なら、かわいいからである！　見よ」
　マリアンヌに羽交い絞めにしてもらい、修一郎はその隙に縫いぐるみ達の頭をなでなで。
「ハーッハッハッハ！　自分の意思に目覚め、行動を選ぶのだ！」
　そして修一郎、ろっこんで自我を取り戻させた縫いぐるみに向かって、地面に額をこすりつけた。
「頼む、級友である野々を救うため力を貸すがよい！　フハハハハ！」

　戸惑いを見せながらも、縫いぐるみ達は大人しく修一郎に従うようだ。
　やがて列を成し立ち去る縫いぐるみ兵団に、拍子抜けした冴来は、黒子を掴んだ腕を下ろした。
「危ないから、一旦こっちへ」
　レティシアの白い手に引かれて、乗った馬車。
　キラキラ光る馬車に乗って考え事も悪くはないか、そう思い直す冴来に黒子も胸を撫で下ろす。

「テオさん……動けないとなると縛られているか」
　もしくは、とレティシアは黒子に視線を向ける。

「手も足もない、こけしさんになっているのでしょうか……？」

　ふくふくした小ダヌキとなった岡野丸美は、転げ回りながら逃げ回っていた。
「わーん、わんこの玩具が追っかけてくる！　かわいいのに、吠えるし、おっかないよぉ～」
　子供の頃の鬼ごっこを思い出しながら、どうにか撒こうとするものの。
「はうっ！」
　建物の隙間を通り抜けようとした時、そのふっくらとした体が見事につっかえて、丸美は絶体絶命！
「ふぇ～ん、こんな事なら真面目にダイエットしておくんだった～」
　じたばたする丸美に迫る玩具。

「お願い。おちついて、この子も困っているのよ」
　猫耳少女のフィギュアが、腕をしなやかに玩具に回して。
　ろっこんを発動させるため、その耳に息を吹きかける。
「きっと皆、元の世界に帰るから、虐めないで」
　繰り返される青物といきの言葉に、玩具は丸美を諦めた。

「大丈夫にゃ？」
　丸美の腕を引っ張って、すぽんと隙間から引き抜く。
「ひゃあ！　あ、ありがとう」
「どういたしましてにゃ♪」
「……ライトいっぱいついて、きれいで楽しい夢だなぁって思ってたのになぁ」
　小動物のように震える丸美の埃を払ってやりながら、といきは素に戻ってイルミネーションを見上げる。
「私達を怖がってるんだよ。決めた。私、この子達と仲良くする。
　ののこ？　テオ？　神様の遊びには、付き合ってられないっつーの……にゃ」
　本当に、私達 “元人間” が迷惑かけてごめんね。