アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

▼お化け屋敷

　お化け屋敷。
「思ったとおり、頭は弱いようですね」
　宇宙を舞台にした映画に出てくるアンドロイドのようなフィギュアになった、ナタリア・シシロヴァは混乱に乗じて、襲い来る玩具を狙い通りに同士討ちにした。
　ロシア人である彼女は、元よりこの件に関心はない。
　神魂の生み出す力を、有限のものと考えている彼女は、便利で不安定な力に頼りきってしまう暗愚をよしとしなかった。
　だから自身の訓練の場として、襲い来る玩具を排除する。
　破壊の感触が腕を伝う。
「いい響き」
　ナタリアは微かに微笑んだ。

　薄野五月は望月神無と共に、内部を探索していた。
　ちなみに五月は、もっこもこの白アルパカ。正面を照らすため、スタッフルームから拝借した懐中電灯を縦に口に咥え、マイペースに喋り続ける。
「ふぉれふぉろっふぉの――略――ひへひゃぁ（訳：これもろっこんの影響なのでしょうか？　いやしかしノープロブレム。何だか私は、元からアルパカだったような気がしてきました）」
「悪い……ちょと、何言ってるかわからない……」
　チョコレートミルク色のアルパカ、神無が先導する。
　彼女は先程＜ショコラーデ・ゲフュール＞でカラス達を懐柔し、情報を得ようとしたのだが、カラスの言葉が分からないため断念せざるを得なかった。
　気を取り直し、五月と寄り添いながら不気味なお化け屋敷を行く事しばし。

　墓場ゾーンで突然、怪物がぬっと現れた。
「うふふ。何だか隠れんぼのようで、童心を思い出しますわね」
　元はそれは美しいビスクドールだった雰囲気があるのに、目は片方もげ、顔も半分溶けて爛れて見る影もない。
　振り返った彼女は、神無と五月を見つけるや否や、物陰から血に汚れたボロボロのドレスを引き摺って飛び出して来た。

「あら、綻びが出来ていますわ」
　彼女が二人に向かって腕を広げる。

　絶叫が響き渡った。

「略（訳：やあ、流石はお化け屋敷。これはびっくりしました）」
「　？？？　ったく、どこまで追っかけて来るんだ！　テオ、居ないのか！？」
　全力で逃げながら、神無は暗がりに呼ばわるが返事はない。

「一体どうされましたの？　ああ、お逃げにならないでくださいまし！」
　まとわり着く長いドレスをつまみあげ、想像を超えて足の速い怪物が追いかける。
　視界の悪さから足をとられた神無が、転倒した。
　すぐに屈みこんだ怪物が、神無の手（足）を取ってニタリと微笑んだ。
「どうしてそんなに震えていますの？　わたくしが来たからにはご安心を、ろっこんで直ちに癒して差し上げますわ」

　ゼシカ・ホーエンハイム。
　星ヶ丘教会の敬虔なるシスターは、今日も迷えるアルパカ達に優しげに手を差し伸べる。