松林は夜のラビリンス｜リアクション

松林は夜のラビリンス

　一方。
　ＡとＢに出会い頭に囲まれて、気丈な飛鳥も流石に驚いた様子だった。
「何だ、お前こんなとこにいたのか」
「はぁ？　こんなて、うちら初対面ちゃいますのん？」
「ふふーん？　そんな女装で、アタイの目を誤魔化そうってぇのかい？」
「女装て、なっ……！？」
　どこをどう見て、そういう結論に達したのか全くの謎だが、Ａは自信満々に胸を反らしている。
　利平はそのけしからんオッパイに、うっかり注目したが、飛鳥はワナワナと身を震わせた。

「し、失礼な……！」
　普段は明るく朗らかな飛鳥から、突如、空手家としての闘気が漲って、辺りの空気が張り詰める。
「うちの、どこが……」
　ユラリ、と前に踏み出した飛鳥に、ミケは全身の毛を逆立てて逃げ出した。
　それが偶然Ｂの股座を潜り抜け、これまた偶然にも股間に痛烈な頭突きを加えていったのは、ご愛嬌。
「ギャッ――！！」
　激痛に蹲ったＢの顎に、飛鳥の下段蹴りが炸裂した。
「オカマや――！！（泣）」

「備太！　この小娘、何てことしてくれんだい！？」
　泣きながら跳ね回るＢに、Ａが果物ナイフを、ちらつかせた。
「そっちかて、凶器を使うなんて卑怯や！」
　咄嗟に身構える、飛鳥。

「ねぇ？　さっきあたしの事、呼んだァ！？」
　張りのある声に、Ａが振り仰ぐ。

「マッスルポォォォォオズッ！！！　キメッ！！！」
　真丸を優しく地面に下ろした蛇那伊は、その場で隆起する筋肉を誇示するポーズを取った。

「おや……、いいオトコじゃないか～。アタイの好みだよ～」
　急に猫なで声で腰をくねらせるＡに、蛇那伊は少し首を傾けた。
「そう？　アリガト。でも悪いけど……あたしは正直、アナタは好みじゃないわ」
　鼻にもかけない蛇那伊に、Ａはくず折れ、スカートの端を噛む。
「よよよ……く、苦節３２年。アタイの愛は、いつも空振りだよぉ～」

「こ、この野郎！　よくもアネゴを振ったな！！」
　そこへゼシカ・ホーエンハイムと共に戻ってきたＣが、雄たけびを上げて突っ込んできた。
　こうなると、ゼシカの制止でも止まらない。
「志蔵さん、いけません！」
　目を覆うゼシカの前で、蛇那伊がコサックダンスの動きでＣに足払いを掛け、Ｃは砂を巻き上げて、派手にすっ転んだ。
「あら、よく転がる体ね？　ちょっと無駄が多いんじゃない？」

「この足場で、あの体勢から、よく足払いなんて出来るな」
　感心する修に、蛇那伊は「鍛え方が違うのよ」と、ウィンクを投げる。
　その足は、まだコサックを踏んだままだ。
　だが体力派のＣは、転んだくらいではヘコたれない。勢い良く起き上がる。
「あら、結構タフね？　じゃあ、これはどうかしら？　ワン・ツー♪　ワン・ツー♪」
　蛇那伊、今度は軽快にステップを始めた。どうやら、エアロビクスの動作のようだ。
「おちょくりやがって～！」
　Ｃは鼻息も荒く、猪突猛進。
　再突進したものの、ひらりと躱された挙句に、続く動作でリズム良く鼻っ柱を連続殴打された。