ハレよ、風吹け　～ぼくらが幸せでありますように～｜リアクション

ハレよ、風吹け　～ぼくらが幸せでありますように～

　霊界大宴会

「はーい、飲み物お待たせしましたぁ」
　霊界線・花緑青駅のホームから線路にかけて集まったあやかしたちの周りを、ヴィーゼ・ベルンスタインが文字通り飛び回っている。どういうわけか今日は此方であやかし大宴会。駅長・餅々きなこも公認のようだ。ヴィーゼは吸血鬼の女性で、霊界のとある場所にあるカフェで働いていてその帰りだったのだが。
（おかしいわね……最初は料理や飲み物運ぶの手伝ってただけなのに、気づけば給仕係みたいになってるわ。いや、宴会の雰囲気は楽しめてるし、皆が楽しそうにしてるのを見るのも好きなんだけど、どうしてこうなったのかしら？）
　まったく訳が分からない。
　が、深く考えても仕方ない。
（こういう日もあるわよねぇ）
　そう考えるのが、霊界ライフを楽しむ秘訣だ。

「え、料理の追加？　はいはい、すぐに持ってきまーす♪
　はい、撫でて欲しい？　そういう注文もあるのね……」

　自身の血液を自在に操る能力を使って生やした血の翼を羽ばたかせて給仕をしていると。
「わっぷ！」
　ぼんやりと立っていた長髪黒髪の青年とぶつかってしまった。
　ヴィーゼは咄嗟に血の腕を出し、吹っ飛びかけたお皿をキャッチする。
「新入りの幽霊さん？　それにしては感触があったわね」

「幽霊ではありまセーン、気づいたらここにいて……
　ここどこデース？　なんだか夢でみたような場所デース」
　青年――深縹露草はきょろきょろとあたりを見回した。
「迷い込んだ人間さんなのね。ふふ、楽しんでいくといいわ」
「ハイ」
　事情を把握しきれないながらもいい返事をした露草は、あやかしたちの無礼講となったホームから駅舎の中へと避難する。そこには花緑青駅の看板猫・黒猫のサニーが、ちっちゃな駅帽を被って座していた。その隣にはきなこもふわふわ浮いている。
「こんにちは。可愛らしいデースね」
　どこか懐かしさを感じて、露草はサニーを撫でた。
「お名前は？　サニー？　スケッチさせていただいてもよろしいですカ？」
　きなこに尋ねると、もちろんだよ、との答え。
「もしよかったら」
「ハイ？」
「あの子に……」
　言いかけたきなこの顔を見ているうち、露草の脳裏に一人の少女が浮かんでくる。白と黒の髪をした寝子島高校に通う生徒――黒白滴。彼女にスケッチを見せたい。そんな気持ちが湧き上がってくる。
「ハイ。機会があれば、このスケッチをお見せしたいデス。ところで……ここって寝子島のどこら辺なんでしょうね？」

　露草がスケッチにいそしんでいる頃、ヴィーゼは一息休憩中であった。
　血で作った腕だけに給仕を任せて、自分は浮きながらコーヒーを味わう。
「こういう中でコーヒーを楽しむのもなかなか乙なものね。それにしても」
　霊界の常に陰鬱な空からも、花びらは舞い落ちている。
「この桜の花びらみたいなの、ただの花びらじゃないみたいだわ……」
　何気なく手に取る。その途端、ヴィーゼは見た。

　太陽は燦々。海も空も真っ青。
　吸血鬼には似つかわしくない南国のビーチで、ヴィーゼはバカンスを満喫中。
　太陽が大丈夫な、霊界カフェ常連のあやかしのみなさんも一緒だ。
　手にはバニラアイスを乗せたコーヒーフロート。普段はホットが好きだけれど海ではやっぱりアイスよね。

　我に返り、ヴィーゼは笑む。
「慰安旅行？　こんな未来も楽しそうね」