「ばいばい、みんな。ばいばい、寝子島」
卒業パレードの桜色の紙吹雪の中。
三年前の入学式に落っこちてきた神、
野々 ののこはゆっくりと空を昇ってゆく。
「急に姿が消えて、みんな驚いてないかな」
ののこは、頭の上にしがみついている
テオに話しかけた。そばには
ミラと、
野々 ととおもいる。
「驚いていたとしても、あっという間に忘れていくだろうな」
テオは目を伏せた。神魂がののこに戻ったということは、ろっこんも、ののこについての記憶も、人々のなかから消えるということ。それが理(ことわり)のはずだった。
「そいつの魂と結びつきすぎて、多少回収できない神魂もあるみてぇだが」
それは食べきったパフェのグラスの内側にこびりついたクリームの痕みたいなもの。
ののこが天に戻るのに充分なだけの神魂は、戻ってきている。
「淋しいな。私はみんなのことを忘れないよ……」
高く昇るにつれて、猫の形をした寝子島の全景が、徐々に視界に入ってきた。
猫の横顔のような形をしたあの島で過ごした三年間。あそこであんなことした、こっちでは大変なこともあった――とめどなく思い出が蘇り、ののこの頬を一筋の涙が伝う。
と、そのときであった。
寝子高のグラウンド、その真ん中あたりから金色の木が天へ向かって聳えているのが見えた。
「あれ見て!」
ののこが指差した先を見たミラが、唖然として言葉を失う。
「なんてことでしょう……」
神の目にだけ映る大木・未来樹。それはまるで桜の木のようであった。光の帯のようにまっすぐ天へと伸びる幹。しかし広がっていたであろう枝々はぱきぱきと枯れ落ち、花びらのような光の欠片をはらはらと地上へ散らしている。その姿は荘厳だがどこか侘しい風情があって――。
「
未来樹の樹が枯れそうになってる……」
「ののこが天に帰ろうという、このタイミングで何故……」
ののこもととおも動揺を隠しきれない。かれらは神だ。さらに言えば、ののこは天界でもっとも力のある神であった。だからこそ、何が起こりつつあるのか、その不吉を、知ってしまう。
「未来樹……この世界の様々な可能性を示す木、だったか」
テオは確かめるようにミラを見る。
「ええ。私はこの樹のありさまから、未来や、時の分かれ道、すなわち時の特異点がいつなのかを見ていました。本来この樹は、たくさんの枝を広げ、桜のような花を咲かせる大きな木。たくさんの枝や花は、たくさんの未来の可能性を示します。なのにあの木は今、枯れかけている……つまり」
「このままだと未来がなくなっちゃう!!!」
ののこが、いやだ、と力いっぱい頭を振ったので、テオは振り落とされそうになった。
「おい、ののこ」
「みんなに願いを叶えてもらうだけの神様に、私、なりたくない」
「まさか……どうする気だッ!」
「
私、守る! みんなの未来を!」
「おおーーーーいい!!!!」
そのころ。
寝子高の東門のあたりに、
巫部 紫苑がいた。おっとりと空を見上げれば、卒業生のパレードは終わったのに空からひらひらと桜に似た花びらが降って来ている。
「花びら……それとも?」
紫苑は手を伸ばし、降って来た花びらを手のひらで受け止める。
「灰……?」
そう思うほど、花びらはどこか終焉を思わせた。
「あら?」
一瞬、紫苑の目に、すてきなご馳走を食べる自分の姿が見えた。料理はまだ食べたことのないものだ。
だが次の瞬間、花びらは手の中で塵となって弾け消えた。
「今のはいったい……?」
どこから来た何だったんだろう。紫苑はあたりを見回す。
あたりにはまだ多くの生徒や保護者が残っていて、写真を撮影したり別れを告げ合ったりしていた。
そんな喧騒から離れた、グラウンドの片隅に――その子はいた。ぴょんとアホ毛の跳ねた、寝子高の制服を着た女子だ。
「よーしよしよし、良い子だね」
彼女は野良猫を撫でまくっている。彼女を見た途端、紫苑は確かに作ったはずの料理がお重一段分なくなってしまったかのような、欠落したモヤモヤした気持ちになった。彼女の制服の胸元に、卒業生がつける桜のリボンがあるところを見ると、三年間同じ寝子高に通った同級生のはずなのだが……。
(同級生ですよね……?)
あんな子、いただろうか。思い出せない。なのに気になる。
紫苑は自然と彼女の方へ歩いてゆき、なんとなく、その同級生の傍にしゃがみこんだ。
(誰でしたっけ……? ああ、そうです、猫。猫、撫でたいですね……)
猫を撫でるといいことがありそう、そんな気がして、紫苑は彼女と一緒に猫を撫でた。紫苑に喉をくすぐられた猫は、もっとやって、というように目を細めている。
「あぁ、かわいいです」
「かわいいよね。……あ」
とうとう猫は、ごろんとお腹を出してゴロゴロゴロと喉を鳴らしはじめた。紫苑と彼女は思わず顔を見合わせて、ふふっと笑みをこぼしあう。
すると不思議なことが起こった。
さっき紫苑の手の中で消えた花びらが輝きを放ちながらふわりと現れ、猫のゴロゴロという音の響きに導かれるようにして、空へと舞い上がり始めたのだ。
「これって……」
見上げれば、空からたくさんの桜のような花びらが降り注いできている。
その中を輝きながら逆流するひとひらの花びらは、まるで『希望』のように見えた。
こんにちは。シナリオを担当させていただく笈地行です。
これがほんとのホワシナのラスト、ホワシナ・フィナーレ後編、と相成りました。
運営部のみなさんといろいろ考えたのですが……らっかみ!らしくラストも『ふつうの日常』がベースです。
その上で、ちょっとフシギなこともあるのでお楽しみください。
それから、いろんな願いも、込められています。
PCさんとプレイヤーさんの思いを受け取って、じっくり結末を考えたいと思います。
巫部 紫苑さん、ガイドへのご登場ありがとうございます。
ご参加いただける場合はガイドに囚われず自由にアクションをお書きください。
みなさんの現状
▼みなさんの神魂
もれいびのみなさんが授かったののこの神魂は、PCさんの体を離れ、ののこに戻りました。
ただ、自分の魂と強く結びついたため、一部の神魂が残っているようです。
残っている程度やそのことによる影響の大きさは、人それぞれです。
▼ののこやテオについての記憶
みなさんは、「ののこ・テオ・ミラ」のことを覚えていません。
人によっては、なんとなく会った気がする、見覚えがある、夢で見たような……
あるいは一緒に過ごして楽しかった感情、一緒に何かと戦った興奮だけ、
具体的なビジョンはないものの、かすかにぼんやり思い出すこともあるようです。
でも、少なくとも彼女たちの「名前」は忘れてしまっています。
寝子高の理事長としての「ととお」のことは、寝子高生などの関係者は覚えています。
前理事長の桜栄あずさが連れてきた、ノリのおかしい(=寝子高らしい)理事長の記憶はありますが、
彼が神さまであることや娘の名前などは覚えていません。
▼ろっこんの記憶と発動
みなさんは、ろっこんや神魂のことも覚えていません。
人によっては、なんとなく特殊能力や不思議現象があった気がする、夢で見たのかな……などなど
かすかに思い出すこともあるようです。
かすかに残った神魂で、ろっこんが発動することもあります。
その場合、いつもよりろっこんの力は弱まっていることが多いようです。
また、どうしてそのような不思議なことが起こるのか理解するのは難しいと思います。
※ほしびとの「星の力」や、あやかしの「能力」はいつもと変わりなく使えます。
このシナリオでできること <パターンA・ふつう>
卒業式が終わった直後のパレードの最中(お昼前)から、日が暮れるまでの時間を自由に過ごすことができます。
主な日常イベント? を紹介しておきます。
【A1】ふつうの打ち上げパーティー
寝子高の卒業生は、パレードの後には恒例の打ち上げパーティーが待っています。
なんなら、それも含めて卒業式みたいなものです。
在校生やOBも参加できますが、送別会ではないので、主催も幹事も卒業生自身です。
七夜あおいを始めとした幹事チームは、場所の手配などに苦労したようです。
(実は自分も幹事チームだ~というアクション、歓迎です)
今年の打ち上げパーティーは「桜花寮・星ヶ丘寮・猫鳴館」の3つの寮で開催されます。
桜花寮では主に食堂で、星ヶ丘寮ではフレンチのレストランと庭で、猫鳴館では大部屋で。
自分の住んでいた寮でもいいし、寮生でなくてもいいし、とにかく好きな場所で参加できます。
ハシゴもOKなので、3つ全部まわっても大丈夫です。
もちろん1つのみでもいいし、そもそも参加しない、という人もいることでしょう。
会場が大きくないので、人があふれています。
活気があっていいですが、騒がしくて疲れてしまうかもしれません。
ふらっと周囲を散歩したり別の寮に移動したりすると、春の陽気を楽しめます。
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【A2】ふつうの寝子島
ここ数日は雨が続いて、風が強く、寒く、でも花粉が多く、実はさんざんだった寝子島。
でもこの日は穏やかなポカポカ陽気で、奇跡的に花粉が飛んでいません。
こんな日は、きっと寝子島をのんびり散歩したくなるのではないでしょうか。
町を歩けば大小さまざまな素敵な店が、いつも通りに開店しています。
駅前では北海道フェアが開催されて、映画館では恋愛ものから社会派までいろいろと。
まさにふつうの、特にいい日の寝子島です。
野良猫たちものんびり日向ぼっこを楽しんでいるようです。
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【A3】ふつうの星幽塔
第一階層、サジタリオ城下町にある酒場“Barアストラル”は、今日も今日とて騒がしい。
不思議なことに、今日はあちこちの冒険から帰ってきたほしびとたちが大集合。あなたも?
それを狙ってか新たな冒険の依頼や怪しい情報も随分出回っているようです。
鍛冶屋のオヤジ、クレイグ・ドナハは未熟な弟子に仕事を任せて飲んだくれ。
武器の製造や改造を依頼してる人はツッコミを入れたくなるかもしれませんね。
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【A4】ふつうの霊界
霊界はいつもの通り、怪しい雰囲気です。
霊界線・花緑青駅では、黒猫のサニーが看板猫として可愛がられています。
今日は駅のホームだけでなく時には線路にも入って妖怪たちが大宴会。たまに運行停止に。
駅長のきなこは「そんなこともあるよねー」と気にしていない様子。
それが霊界のふつう。みんな思い思いの霊界ライフを楽しんでいるようですね。
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【A5】その他の場所
寝子島以外の地域・国など自由にどうぞ。
このシナリオでできること <パターンB・フシギ>
アクションに書いてあれば、以下のようなちょっとフシギなものに関わることになります。
プレイヤー情報なので、PCさんは知らないことは知りません。わからないことはわかりません。
【B1】未来樹と猫のごろごろ
未来樹が枯れると、みんなの未来がなくなってしまうようです。
PCさんの将来、寝子島の今後、そしてらっかみ!の結末が、決まります。
未来樹の花びらなのでしょうか、桜のような花びらが散っています。
猫をなでなでしてゴロゴロさせてあげると、花びらが輝いて舞い上がるようです。
きっと、なにかいいことがあるのでしょう。
神魂を失っていても(一部残っているから?)、それを感じ取れるかもしれません。
あるいは、何もわからないけど、ただただ猫をなでなでしたくなるかもしれません。
だって猫はかわいいから。
どんな猫をなでなでするかは自由です。にゃんこメモにある猫でも、ない猫でも。
猫に変身するろっこんを持っていた方は、自分でもよくわからないうちに
猫に変身してなでなでされちゃうかもしれません。
【B2】未来樹の花びら
寝子島を中心に、世界中の様々なところへ(神魂の残り香があるところへ)散っています。
星幽塔にも霊界にも、散っています。
桜のような花びらが散ってきたら、手に取ることができます。
何枚でも手に取れて、取った数だけ未来が見えます。
※アクションにあれば何枚でも取れます。
未来は漠然としか指定できず、その未来も「いくつもある可能性の一つ」です。
「マスターにおまかせ」もできます。明記がなければ「おまかせ」になります。
ひとつひとつが異なる世界線による、異なる未来の可能性です。
すべてがリアルに起こり得ることですが、
この花びらになっているということは「失われた未来」のようです。
<例>
南波太陽くんは、花びらを何枚も見たようです。
そのひとつは、成人式の日に、ビシッとスーツで出席して代表スピーチをする未来の自分。
そのひとつは、成人式の日に、式典に出ずに家でロケットの勉強に夢中な未来の自分。
そのひとつは、成人式の日に、寝子島にすらいなくて、世界を旅してまわっている未来の自分。
きっと見ることのできなかった花びらにも、いろいろな太陽くんがいるのでしょう。
もれいびも、もれいびでなくても、この現象を体験することができます。
【B3】ののことの遭遇
ののこと遭遇するかもしれません。
ののこは道端で、軒先で、公園で、店の中で、さまざまなところで猫をなでなでしています。
※アクションにあれば会えます。なくても会うかもしれません。
ののこはあなたに対して、にこやかに穏やかに接することでしょう。
でも、あまり話したがりません。何か質問などをしてもにっこり微笑むだけで回答は望めません。
あなたがののこを覚えていないように、ののこもあなたを覚えていないように見えます。
寝子高卒業生の制服を着ていて、打ち上げパーティーの場に現れることもあります。
あまり彼女に注目して不思議に思うような人はいないので、なんとなく馴染んでいるようです。
※寝子高の校内でののこと遭遇するのは、ガイド本文の後は難しいかもしれません。
この後、いつの間にかどこかに移動してしまいます。(紫苑さんは望めば再会可能です)
【B4】テオとミラとの遭遇
テオと遭遇するかもしれません。
テオはののこの近くで見守ったり、野良猫に魚をわけてやったり、ミラから逃げたりしています。
あと、たまにシーサイドタウンの店をのぞいたり、通りすがりのサンマさんにパンチしたりも。
ミラと遭遇するかもしれません。
ミラは寝子島一愛想のいい野良猫となって、たくさんの人になでなでされています。
すぐにおなかを見せてごろごろごろりん。でもたまにテオの気配を感じて追いかけています。
※どちらも、アクションにあれば会えます。なくても会うかもしれません。
アクションの書き方
行動内容の前に、【A1】~【B4】を入れてください。
例:打ち上げパーティーに参加して、ついでに猫をなでなでしたい場合は【A1】【B1】
▼できること
このシナリオガイドから読み取れることであれば、何でもできます。
打ち上げパーティーなどのイベント? に参加しなくても構いません。
ただし行動は1つか2つに絞ってください。
▼場所と時間
場所は、このシナリオガイドから読み取れる範囲で、どこでもOKです。
移動してもいいし、自宅や店でもいいし、島外に行っててもいいし、たいていなんでもOKです。
寝子高の卒業式後のパレードの最中(お昼すこし前)からスタートです。
打ち上げパーティーは夕方まで行われます。
登場NPC
上記で説明のあったNPCの他には、原則として「下記に記載されたNPC」のみが登場します。
そのNPCらしい場所と時間であれば、だいたい対応できますが、長時間いっしょに過ごすことはできません。
※卒業を機にNPCとの関係を見直したり進展したりするアクションは、今回は対応できません。
ホワシナ・フィナーレが終わってから、対応できるようになる予定です。
▼寝子高生NPC
三年
七夜 あおい / 串田 美弥子 / 野菜原 ユウ
二年
三宅 ゆり / 笛吹 ぴりり
一年
黒白 滴 / 青木 慎之介(一時帰国中)
▼寝子高教師NPC
すべての寝子高教員 / 元理事長・桜栄 あずさ
▼その他のNPC
OB・OG
海原 茂 / 北風 貴子 / 鷹取 洋二 / 剣崎 エレナ / 胡乱路 秘子
その他
サンマさん / マンボウくん
その他、ご注意などなど
◇なるべく行動や狙いをシンプルに絞ってアクションお書きください。
◇Xイラストのキャラクターについて
Xイラストのキャラクターを描写する場合、
PCとXキャラの2人あわせて「1人分」の描写です。
※Xキャラだけで1人分の描写とすることも可能です。
その場合は、PCさん自身は描写がなく、Xキャラだけが描写されます。
Xキャラのみの描写をご希望である旨を、アクションにわかるようにご記入ください。
※Xキャラをご希望の場合は、口調などのキャラ設定をアクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
これが本当に最後のホワイトシナリオです。かみしめましょう。ご参加お待ちしております!