ハレよ、風吹け　～ぼくらが幸せでありますように～｜リアクション

ハレよ、風吹け　～ぼくらが幸せでありますように～

　待ち合わせてカラオケへ

　シーサイドタウン駅前は混んでいた。
「先輩！」
　稲積柚春は、桜井ラッセルとその友人の海道千里の姿を見つけ、手を振って駆け寄る。
「改めて、ご卒業おめでとうございます！」
「おう、サンキュ」
「やっぱり駅前はちょっと混んでますね。合流できて良かった」
「人もだが猫も多くねーか？」
　千里が辺りを見回して言う。たしかにいつもより猫も多いと柚春もラッセルも思った。
「あの子なんて、桜の花びらを被ってて可愛いし、ちょっと撫でていきませんか？」
「だな」
　三人は、つんと澄まして座っている桜かぶりの猫を代わる代わる撫でる。猫は気持ちいいはずなのに、澄まし顔のままだった。
「ツンデレお姫様？」と千里。
　ラッセルは千里の言葉に笑ってしまう。
「桜花寮でもにゃんこ預かって大騒ぎだったし、つくづく今日は猫に縁がある日だな」
「寝子島らしいね。猫ってさ、撫でると幸せな気持ちになれるよね」
　柚春はつい、ここにウォルターがいたらもっと良かったのにな、なんて思ってしまう。

（※柚春さんの脳内映像をお届けしました）

「そういえば先輩、彼女さんとの馴れ初めはなんだったんですか？」
　唐突な柚春からの質問にラッセルは、ぶっは！？　と吹き出してしまう。
　ラッセルにはちょっと不思議なカノジョがいた。
「女の子はすぐそういうこと……」
　困ってしまう。
「先輩と恋バナしたことなかったから気になるっていうか。そばにいないときは寂しくないのかな、とか」
「寂しいよ！　って言わせんなよ！」
「ヒューヒュー」千里が囃し立てる。
「で、馴れ初めは？」柚春も興味津々だ。
「馴れ初めは……『可愛い』が天から舞い降りたつーか？」
　は？　と千里が首をかしげるが、ラッセルは思い出そうとして一生懸命で、無意識に鍵を握っている。その鍵はラッセルがろっこんで鳥になるためのトリガーであったのだが、今はそれを思い出せない。
「えーっと、なんだっけ。星が綺麗な夜で驚いて……俺は飛んでて……ってそんなわけないよな、あれ？」
「しっかりしろよ」
　千里がラッセルの背中をバシッと叩く。
「……ん」
　何か変だな、と思うが何が変なのかは分からない。
　その上今日は卒業と言うおめでたい日で、分からないことをじっくり思索する日ではなかった。
　ラッセル達はわいわい恋バナに花を咲かせながら、カラオケ屋さんへと歩いてゆく。
　これから数時間はきっと楽しい。