ハレよ、風吹け　～ぼくらが幸せでありますように～｜リアクション

ハレよ、風吹け　～ぼくらが幸せでありますように～

　猫を撫でる

　もちろん、と少女は笑った。
　どこからか、灰色猫と白猫も現れて、猫だまりは十匹以上の猫で大盛況である。
「灰白猫君、白猫さんも、なでさせてー！」
　夏朝はハルくんを嵌めた手で、ハルくんの肉球で猫たちをなでなで。
　真白と深夜子も猫だまりの猫たちを撫でまくる。
「ごろごろしてる猫ちゃんを見るとついついなでなでしたくなるよね」
「ほんとよー。なでなでしてー、猫じゃらしで遊んでー、猫おやつもあげちゃう！」
　猫たちにすりすりされて、よじ登られて……深夜子はもう蕩けそうだ。
「あああ嬉しい、そして先に進めないー！　猫はいいわーカラスなんかは最悪だけど」
「カラス、許さない……」
「カラス……ハッ、そんなものにはもう何も感じない」
　何故かカラス憎さで意気投合する深夜子と夏朝と夏夜。
　大丈夫、ここには悪いカラスはいない。
　そんなことより猫だ。愛くるしくてたまらない猫を思う存分愛でようではないか。
（夏朝とアホ毛の子が猫を撫でている姿、なんだか懐かしいかんじがする……いいな……）
　将来は写真の道へ進もうと思っている夏夜は、デジカメを取り出しシャッターを切った。一方、夏朝はスケッチブックに灰白猫や白猫を描きとめているようだ。この時をいつまでも残そうとするかのように。

　そうして皆で代わる代わる猫を愛で、撫でていると異変が起こった。
　最初に気づいたのは真白だった。
「ん？　今何か光ったような気が」
「花びらみたいね。夢の続きなのかしらねー……」
　猫を抱いた深夜子にも真実はわからない。それは一瞬で、あまりにも幻想的だったから。
　あなたも見えた？　と尋ねるようにアホ毛の少女に視線を向けたが、彼女はにこっと微笑むばかりだ。
　光の当たり加減とかでそう見えただけかな、と真白は自分を納得させる。

「うん、これは私たちの旅路を祝福してるのだ！」

　行こう、星ヶ丘寮へ！　真白は立ち上がった。
　たしかにそろそろ移動しなくちゃ、と深夜子も抱いていた猫たちを地面に下す。
「夏朝、僕たちも行こう」
「そうだね夏夜ちゃん」
　猫好きなアホ毛さんや灰白猫君、白猫さんとは別れがたいけれど、進まなくちゃ。

「アホ毛の子、あと……灰白の猫や白の猫も。機会があれば、また会おうね」

　夏夜は猫たちと少女にそう言って別れを告げる。
　夏朝はまた涙が溢れそうになって来た。
「泣かないで」
　とアホ毛の少女は夏朝の手を握る。
　うん、うん、と夏朝は頷く。
「僕ちゃんと泣き止むから、前に進むから……！　猫好きさん、灰白猫君、白猫さん。またいつの日か、何処かで会おうね。それから……」
　僕と夏夜ちゃんの大切な願いを叶えてくれて……本当にありがとう。
　どうしてかそう思った。

（かーさ、かや……）
　肉球の手で夏朝の涙をぬぐいながら、ハルくんは誓う。
（ハルはかーさ達と一緒にいるにゃ。ハルが経年劣化でぼろぼろになるまでずっとずっと。付喪神のハルは、ずーっとかーさとかや達を見守っているのにゃ！）