卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　卒業式前日の寝子島～バスケ部女子たちの葛藤

　講堂では１、２年生が集まって卒業式の設営をしている。ざっと掃き掃除をしたあと、卒業生や保護者席などの座席づくりや、紅白幕や式次第、お花紙でつくった花々の飾りつけ。
（去年、１年生だった時にこの作業をしたときはまだ卒業なんて先の話だと思っていたんだけどな）
　浅見柚乃がそんなことを思っていると、飾りつけ担当の女子学生に声を掛けられた。背が低くて、手が届かないらしい。
「そこの、背の高いバスケ部の――浅見さんと霧生さん！　高いところの飾りつけ、手伝ってくれない？」
　柚乃ははっとして、いっしょに呼ばれた霧生愛の存在に気づいた。
　愛は一瞬だけ柚乃を鋭く見て「はい」と答える。
　愛はバスケ部の後輩。だが、決して親密とは言い難い関係だった。

「浅見先輩、花、取って貰えますか」
「どうして私が霧生に花を渡す役なの？」
「私のほうが背が高いからですが」
「先輩に譲ろうっていう謙虚な心はないの？」
「謙虚。ありませんね。勝つのにそんなもの、必要ですか？」
　柚乃と愛の間に飛び交う火花を、頼んだ背の低い女子学生はハラハラと見守っている。
　愛は言葉を続ける。
「明日には先輩方が卒業されます。なら、しっかりと講堂での準備を済ませて気持ちよく見送りたいと思いませんか。碧南先輩のことを」
　碧南先輩。その名前を愛が口にした途端、柚乃はキッと愛を睨んだ。
「思うわ。ええ、思うわよ」
　あっという間に過ぎ去ったこの一年のことがまざまざと思い出される。
　色々なことがあった。その中でも、柚乃にとって忘れがたいことは、キャプテンだった羽生碧南から女子バスケ部のキャプテンを任されたこと……ではなく、先輩への想いが「尊敬する先輩」へのものから「恋」に変わったことだ。
（それが決して叶わぬことだと言うこともわかってしまって……）
　悔しそうに唇を噛む柚乃の顔を見て、愛はため息をついて柚乃に花を渡した。
「そんな顔されたらやりづらいです。花、飾ってください。私が渡しますから」
　試合中、柚乃に回したパスを柚乃は必ずいい形でつないでくれる。逆もまたしかり。
　仲は決して良くない……どころか不仲ともいえるけれど、相性自体は皮肉にも抜群に良いのだ。
（新学期からは私がキャプテンになった浅見先輩を実質的に支えることになる。感情を優先するほど子供じゃない……と思いたい。浅見先輩も、私も）

　講堂の設営を終えて外に出てくると、卒業生としての準備を終えた碧南が、女子バスケ部の三年生たちと集まっていた。バスケを続ける子も、続けない子もいるが、別の大学に進学して続ける子たちとはこれからは別のチームになる。
「寝子高女子バスケ部キャプテンとしてみんなと全国にまでいけたこと、心から誇りに思うよ。これから大会で会ったときはライバルだけど、お互い頑張ろうね！」
　碧南が笑顔でみんなの顔を見回してエールを送っていると、
「先輩！」
　柚乃や愛、女子バスケ部の１、２年生が駆け寄って来た。
　いまの碧南の言葉が聞こえていたのだろう。
　みんな目に涙をいっぱい溜めて――。
「先輩～！」
「寂しいです先輩！」
「ちょくちょく遊びに来てください！」
「……うん、うん」
　この前の送る会でも散々泣いたのに、碧南はまた涙が溢れ出てきて。
　柚乃を抱き締め、愛を抱き締め、後輩みんなを抱き締め、みんなで泣いた。