卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　卒業式前日の寝子島～あしたで卒業

　水谷真優理は自宅のマンションの壁にかかった、豪奢な着物を眺めていた。
　淡い水色の地色に桜が織り込まれた、上品で大人びたものである。

（ドレスか着物か迷ったけれど、ハレの日に相応しいお着物がレンタルできてよかったわ）

　明日は同居する従妹であり溺愛する相手でもある、青山絢の卒業式である。
　一週間も前から気合を入れて身支度をし、仕事も昨日今日と強引に有休を確保した。三月の観光シーズン真っただ中にお休みをいただいてしまったので、そのぶんゴールデンウィークは完全に仕事で潰れることになりそうだけれど、悔いはない。
（明日は早朝からヘアサロンを予約したし。レンタル着物も相当お値段高めだったけど、絢ちゃんのためなら出し惜しみはしない！）
　愛する絢のためならば、ブレない真優理さんが今日もいた。

◇

　さて、当の絢は学校に登校して卒業式の段取りを確認したり、歌の練習などを済ませたりしていた。
（この制服も明日が着収め。あしたで卒業……だというのに、全然そんな実感がないわ）
　人差し指でえんじ色の襟のラインをなぞる。
　四月からは木天蓼大学芸術学部の大学生。学生の身分は当分続くが、制服とはおさらばだ。もっとも、絢は女優としての第一歩を踏み出し始めており、女優やモデルの仕事と学業との二足の草鞋を履くつもりなので、純粋な意味で学生とは言えないのかもしれないが。
　そんな絢の手にはミラーレス一眼のカメラがあった。
「もっと寄ってもらっていい？　そう。撮るよ」
　絢は、卒業生たちに頼まれてシャッターを切っている。
　絢の父は写真家。同じ道は歩めずとも、カメラと絢はおそらく一生、切っても切れぬ関係であるだろう。
（──去年と違うのは、私も卒業生だということ。こうして卒業生を撮るのもきっと今日が最後ね）
　だから、という訳ではないけれど。
　絢は一枚一枚を大切に撮った。
　最後に写った被写体は──。
「青山さん、自分、撮ってないでしょ？」
「そうだよ。青山さんも卒業生なんだから。私たちが撮ってあげる」
　──絢自身だった。
「三年間、卒業式のフォトグラファーを務めてくれた青山さんに感謝を」
　そういって友人たちがシャッターを切る。