卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　卒業式前日の寝子島～飾りつけをしていたら

　昇降口を出ようとした稲積柚春は、外の様子に足を止めた。
　辺りは薄闇。しっとりとした春らしい雨が降ってきている。
「そっか、もうこんな時間……飾り付けしてたら遅くなっちゃったな」
　もうちょっと待ってたら止まないかなぁ、と空を見上げるが、雲は存外厚いようだ。
「ワットは大丈夫かな。三年生の担任だから明日は体調崩せないのに」
　柚春は踵を返す。傘を持ってるか、車出勤か聞きに行ってみよう。そして、一緒に帰ろうと誘ってみよう！

　傘ね、と、職員室のウォルターは机の引き出しを漁った。
「折りたたみ傘？」
「こんなこともあろうかと、ね～」
　さすがだ。

　柚春は傘を持ってきていなかったので、結局こうなる。相合傘だ。
「ワットは今朝、不思議な声は聞こえた？　なんだか助けを求めるような……そんな声。僕ね、寝子島に来てからそういう夢をよく見るんだ。夢……なのかな」
「どうなんだろうねぇ」
　ウォルターは浅く微笑んで首を傾げる。
　柚春はもれいびであるが自覚はない。だから自分の身に起こっていることを正確に把握はできていない。
　ただ、ウォルターと不思議な場所に行ったり、夢とは言い切れない事象に出くわしたりしたのは覚えている。
「何が起きているのかよくわからなくて……ワットは寝子島が長いんだよね、何が起きてるのか知ってる？」
「さぁ」
　柚春の疑問に答えられなくて残念というような笑みを浮かべて、ウォルターは答えた。
「そう。元々こういう場所なのか、それとも最近なのか気になるけど……なくなっちゃうのは寂しいなって。なんだろうね、そんな気がしたの。卒業式前だからかな？」
　ありがとうって言いたくて、頑張れって応援したい気持ちで。
　柚春は傘から少し顔を出して、空を見上げる。
「……みんな、大丈夫だよね」