【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！｜リアクション

【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！

　人で混み合うところを避けた浅見柚乃は満足のいくストレッチを行った。仕上げに手首と足首を適度に回す。バスケットボールの試合を控えた選手のように赤いユニフォームを着ていた。
　その後、全身の力を抜いて緩やかな呼吸に努めた。心の落ち着きを実感して、よし、と小さな声を出した。
　――一か月前の私とは大違いね。碧南先輩から引き継いだキャプテンの重圧は今でも凄いけれど、なんとか折り合いを付けてやっていけるようになったわ。
　胸に取り付けたゼッケンに目を落とす。間に挿し込まれたピンクのシクラメンが首を傾げていた。柚乃は安心させるように笑みを返す。
　――花言葉は『あこがれ』って運営の人に教えられた。その言葉で真っ先に頭に浮かぶのは碧南先輩のこと。
　にわかに表情が陰る。
　――卒業が近いから。なんて自分を誤魔化すことはできないよね。それだけじゃなくて、碧南先輩は一つ年上の鷹取洋二という先輩と両想いになった。恋が実ったことを後輩の私は喜んでいいはずなのに、素直になれない。
　胸中に過った瞬間、柚乃は力なく頭を左右に振った。自嘲するような笑みで内なる声を付け足した。
　――素直な気持ちだから余計に受け入れられないのよ。碧南先輩は私の中で存在感を大きくして、あこがれからそれ以上の存在になった。
　瞬間、思考を中断して歩き出す。身体を動かすことで言葉を封じた。
　その行動が呼び水となって碧南と出会う。朗らかな顔で話す相手は洋二だった。
　柚乃は硬直した。気さくに話し掛けることができず、紅潮した顔で目を剥いた。頭の震えを抑えるように両手で頬を挟み、爪を立てるようにしてゆっくりと引き下ろす。
　――頭が、おかしくなりそう。身体が燃えるように熱くて、視界がぼやける。これは紛れもない嫉妬心で、私は片思いで身を焦がす憐れな女なのね。
　赤鬼の形相で狂気めいた笑みが零れた。