【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！｜リアクション

【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！

　綾辻綾花は腕の振りを意識して走る。隣には早川珪がいて柔らかい笑みを浮かべていた。
「……あまり見られると逆に緊張します」
「ごめん。過保護が過ぎたようだね」
　爽やかな笑みで前を向く。風を受けた前髪が後方へ流れ、野性味のある美しさを醸し出す。
　綾花は飽きることなく見続けた。珪の口元に笑みが浮かぶ。
「僕の方が緊張しそうだ」
「そうですよね。走りに集中します……」
　赤い果実となった耳朶を髪で隠すようにして前を向いた。
　沿道の花が目に飛び込んできた。見惚れたようになって心の声が零れた。
「花がきれいですね」
「そうだね。運営の努力が実って華やかなマラソン大会になったよ」
「本当に」
　他愛の無い会話が耳に心地よく、無意識の内に腕の振りが大きくなった。
　旧市街ではよく猫を見かけた。首輪を付けた飼い猫や野良猫が混在して綾花の目を引いた。
　一匹のブチ猫には過剰な反応を示す。
「私の猫メモに書かれていない猫ちゃんですよ！」
　駆け寄るとしゃがんで頭を撫で始めた。慣れた手付きにブチ猫は心を許し、仰向けとなった。
　綾花は要望を受けて腹部を優しく撫でた。
「甘えん坊な猫ちゃんですね。また会った時にはカリカリを用意しますね」
　飼い猫に接するような態度で喉をくすぐる。珪は後方で足を止めて眺めていた。その眼差しは温かく、相手を包み込む。
　満足したのか。綾花は立ち上がって振り返る。恥ずかしそうな笑みで、お待たせしました、と小さな声で言った。
「英気を養ったようだね」
　珪は柔らかい笑みを返した。
　中間地点を超えて終盤に差し掛かる。
　綾花の走りに変化は見られない。珪の目が離れた瞬間を狙うように表情を歪めた。若干、右足の上がり方が悪くなり、距離を伸ばす程に状態が悪くなる。
　隠し切れないところまで悪化した。やや跳ねるような走り方で足音が大きくなる。珪は真剣な顔を向けてきた。
「棄権してもいいから無理だけはしないで欲しい」
「大丈夫です」
　努めて笑顔を見せた。珪は裏に隠れた本心を覗き込むような目付きとなった。
「本当に無理なら僕が止める」
「わかりました」
　綾花は走り方を一変させた。完走できるように早歩き程度の速度に落とした。注意を払いながらも珪は辛抱強く付き合う。

　綾花の頑張りで完走することができた。最後は歩いてゴールとなった。
「珪先生、ありがとうございました。私の紫のチューリップを受け取ってください」
「もちろんだよ。あと花言葉を教えてくれると有難い」
「……『永遠の愛』です」
　耳にした途端、珪は静かに、そうか、と答えてウィンドブレーカーのポケットに手を入れた。
　引っ張り出した花を代わりとばかりに差し出した。
「これが僕のお返しだよ」
「……これってピンクの胡蝶蘭ですよね」
「嫌いな花だったか？」
「そんなことは全然ないです！　喜んでいただきます！　本当に心から嬉しくて……」
　胡蝶蘭に負けない顔色で綾花は受け取った。
　ピンクの胡蝶蘭の花言葉は『あなたを愛しています』であった。
　――珪さんは花言葉、知らないと思いますが……。

　華やかで香しいマラソン大会は個々をほんのりと染めて幕を閉じた。

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あとがき

担当マスター：黒羽カラス
ファンレターはマスターページから！

　花の香りに包まれた華やかなマラソン大会が終わりました。
　花の数に等しい花言葉が書かれています。花の種類が同じでも色で意味が変わってきます。
　恋に関係した花言葉はお互いを強く意識させて、今後を華やかに彩ることでしょう。
　参加者の中には走っている過程で花を失いました。好転の兆しとなるでしょうか。

　様々な恋愛模様が花とよく合いました。二人の距離を縮めて思い思いのゴールを切る姿が目に浮かびます。
　幸せな気分のままあとがきを終わりたいと思います。

　今回もご参加、ありがとうございました。

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