【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！｜リアクション

【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！

　他の参加者と同様に稲積柚春は走り出す。寝子島高校を出るとコースに従って旧市街へ向かう。
　古い街並みを背景に多くの人が立ち止まってランナーの奮闘を見つめる。小さな子供もいて、がんばって！　と怒鳴るような声援を送った。
　柚春は走りながら目をキョロキョロさせる。周囲のランナーだけでなく、沿道にいた人々にまで注目した。
　――ワットがどこにもいない。もしかしたら前の方を走っていたりするのかな。
　心が求めるままに速度を上げた。無理が祟って息が切れる。握っていたブルーローズを落としそうになって足がもつれた。
　立ち止まって息を整える。ふと目が脇道に向かう。そこにも人がいた。奥の方は暗くてはっきりしない。
　一歩を踏み出して、ダメ、と自身に向けて言った。
　――コースを外れたら失格になるよ。それだけはしたらダメだよ。ちゃんとゴールしてワットに花を受け取って貰うんだから。
　その強い想いで走り出す。自身の体力を見極めて変わる街並みに笑顔を見せるようになった。
　――どこを見てもワットの思い出がいっぱいで、胸がキュッとする。会いたい気持ちが高まって、なんか切ないような嬉しい気持ちだよ。
　どこか目を潤ませて島内をぐるりと巡る。
　左手の網越しに第一グラウンドが見える。笑顔でゴールに駆け込む人々がいた。労う人達もいた。
　――ワットに会いたい。それでこの花を贈りたい。
　最後の力を振り絞って柚春は走る。ゴールしたあとも想い人を求めて方々を探し回った。
　その努力の甲斐があって正門を出たところで見つけた。
　柚春は声を掛けない。喉の奥に言葉を押し込んで正門を出た。
　そこでようやく、ワット、と声を掛けた。
　ウォルター・Bは柔らかい笑みで振り返る。
「もうゴールしていたんだねぇ」
「もしかして待っていたの？」
「渡したいものがあるんだよねぇ」
「実は私もだよ、ワット」
　ウォルターは、その愛称に困ったような笑みで、校外なので、と言って軽く咳払いをした。
「完走、おめでとう。頑張った柚春にプレゼント」
　後ろ手に隠していた一輪の花を差し出した。目にした柚春は驚いた顔で、ウソ、と震える声で言った。
「今回は年齢の数ではなくて、一輪に想いを込めてみた」
「私も一輪のブルーローズなんだけど……」
「そうみたいだねぇ」
　二人は気持ちの籠ったブルーローズを交換する形となった。
「ワット、これってつまり」
「今はまだ先生と生徒だから、その後のことは、ね」
　ウォルターはウインクをして見せた。
　柚春は手の中のブルーローズを指で回しながら、うん、と頬をほんのりと赤らめて頷いた。