【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！｜リアクション

【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！

　三折部朝衣は一人で走っていた。手には運営から渡されたプリムラ・シネンシスをしっかりと握っている。距離をいく程に花を見る機会が増えた。
　――花言葉は『永遠の愛情』だから、絶対にゴールするわ。一緒に参加した遥人も同じ花だし、私と同じように頑張って走っていると思う。
　想いが力となってシーサイドタウンを超えて星ヶ丘のエリアに入った。
　そこでも花が出迎えた。朝衣は見向きもしない。嫌っているのではなく、その余裕がなくなっていた。
　――サーフィンのおかげで体力に自信はあるんだけど、マラソンは不慣れでかなり厳しい。でも、棄権だけはしたくない。『永遠の愛情』が失われるなんて考えるだけで縁起が悪すぎるわ。
　今頃、遥人だって頑張っているはず。どこらヘンを走っているのかな。一緒に走ったら気にしなくて済んだのに。でも、ヘロヘロのみっともない姿は見られたくないし。
　抱えたジレンマに、もう！　と声を上げた。気分的にすっきりして険しい表情がマイルドになった。
　――シェフなんだから私よりも、もっと苦しい状況にあってもおかしくないわ。それなのに私が弱気になってどうすんのよ。
　心の中で叱咤して気持ちを奮い立たせた。毅然とした態度を装い、とにかく足を動かすことに専念した。
　横手に第一グラウンドが見えて安心感から気が遠くなる。
「ま、まだ、なんだから」
　もがくように足を出し、蛇行気味に正門を通った。フラフラした状態は尚も続き、揺らぐゴールに遥人の姿を見つけた。
　――シェフって、案外、体力あるのね。
　それ以外の言葉が浮かばず、愚直に遥人だけを見つめた。近づこうと手を伸ばし、そのまま胸の中に倒れ込んだ。
「これで、もう……」
　静かに瞼を閉じる。薄れる意識の中で遥人の声が響く。
　――私、ゴール、したんだね。
　意識はそこで途切れた。

　永遠の愛情を胸に朝衣は完走を成し遂げた。

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