【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！｜リアクション

【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！

　仙藤紫は走りながらちらりと花を見る。鮮やかな色に癒されて穏やかな表情となり、緩やかなペースに乗った。
　密集したところは避けて時に速度を落として遣り過ごす。場合によっては前へ出た。視界が広がっても急激に速度を上げず、無理のないペースを保つ。
　混み合う給水所では細心の注意を払う。割り込むような行為を控え、水分補給に努めた。結果、順位を落としても気にしない。
　紫は愚直に完走を目指した。
　淡々と距離を走ることで逆に集中力が増した。過去の恋を思い出すこともなくなった。姿が見えなくなった妹達を目で探す行為もやめた。
　一人のランナーとして走ることに徹した。
　それでも徐々に体力が削られていく。手の振りが小さくなる。足が出辛くなって速度が緩やかに落ちてきた。
　やや口が開いて呼吸に乱れが生じた。
　――この距離はさすがに堪えるわ。
　沿道の花を見た。苦しさが紛れたのか。厳しい表情が少し緩和した。
　両腕の力を抜いてブラブラとさせた。リセットしたかのように再び腕を振り始めた。その力強さに引っ張られるように足が前に出るようになった。
　――あと少しでゴールよ。
　目は前を見据え、持ち前の集中力を高めてゆく。
　最後は観客の声援が背中を押した。紫はゴールを果たし、両膝に手を当てた。背を丸めた姿で呼吸を整えていく。
　普段の状態に戻ると顔を上げた。背筋を伸ばして大きく息を吸って吐いた。
　熱かった身体が適度に冷えた。そして、ようやくあることに気付いた。
　両方の掌に目をやる。
　――いつの間にか、花がなくなっているわ。
　苦笑は間もなく清々しい表情に取って代わられた。
「……悩み多き恋」
　青いサイネリアの花言葉を口にした。その花は手元になく、過去のものとなった。