芽森菜々緒の迷走｜リアクション

芽森菜々緒の迷走

　攻略班が到着する数時間前。
　手蹴と水上はボス部屋で大苦戦していた。
「スライムなんて雑魚だけど、これだけ大きいとそれなりに脅威よね」
　ここは上手く事を運ばねば危険が及ぶと判断した水上は、急に冷静になってボウガンの弦を巻き取ってゆく。
　一方、手蹴は口からよだれをだらだら垂らして、触手ブレードをガチガチぶつけて歓喜していた。

　テケリ・リ

　テケリ・リ

「ここはスライムが沢山生息しているようですね。私に言わせればスライムは高級食材です。煮て良し焼いて良し生で良し。それでは――」
　途端、手蹴の姿が全裸の女性の姿から、本来の真っ黒で冒涜的なタール状の粘性動物へ戻ってゆく。

「捕食しましょう」
「えっ？　手蹴さんっ！？　怖ッ！？」
　まさか帯同していた相手が人外だったことに水上は正気度が大幅に削られてしまう。
　それでも手蹴は律儀に水上を守りながら８本の触手ブレードをぶん回して巨大なスライムキングを掻っ捌いてゆく。
「まずは刺身でしょうか。ああ、やはりスライムは新鮮さが重要ですね」

　テケリ・リ

　テケリ・リ

　斬り裂いては飛び散ったスライムの破片を体内に取り込んでゆく手蹴。
　圧倒的な手数に、水上はしばらく呆気に取られていたが……。
「っ！　危ない！」
　手蹴が斬り裂いたスライムキングの破片が自律稼働して挟撃してきたのだ。
　まさかの分裂攻撃に、手蹴の黒い塊の身体が壁に叩きつけられる。
　今度は分裂個体が手蹴を取り込もうとしているのだ。
　水上はすかさず星の力を宿したボルトをクロスボウから発射！
「手蹴さんから離れなさいよ！」
　分裂個体に狩人の矢をぶち込めば、その核を見事に射抜いて撃滅させてみせた。
　一撃必殺！
　しかし、分裂個体は死滅と同時に、水風船が破裂したように爆発して粘液を周囲へ跳び散らかした。
　大量の粘液が水上の上半身に浴びせらた。
　顔と髪に纏わりつく粘液を手で拭い、ぺっぺっと口の中に入った分も吐き出す。
「おえぇぇ……もう、本当に嫌だ……ベトベトじゃない……って、手蹴さんがいない！？」
　先程まで壁のシミになっていた手蹴の姿が消失していた。
　すると、天井から声が聞こえてくる。
「桜さん、こちらです。私も吹き飛ばされる際に分裂して、デコイを作ったのです」
　にゅるにゅると黒い粘液が垂れてきたかと思えば、再び全裸の女性を象ってゆく手蹴。
「あのスライムの片割れは、残念ながら逃がしてしまいました。しかし、収穫は十分です。ほら、この通り」
　差し出してきたのは、先程のスライムの破片だ。
　そして、何故か手蹴の体の中から飛び出してきたポン酢の小瓶。
　手蹴はスライムの破片にポン酢をドバドバかけてから口の中へちゅるちゅると食べ始めた。
「やはり、新鮮なスライムの刺身はポン酢に限ります。桜さんもひと口、如何ですか？」
「え、食べなきゃダメ？　ううぅ……でもそういえばお腹減ったし……ああ、またイライラしてきたわ！」
　ヤケクソ気味で水上はスライムの破片にポン酢をかけて、口の中へ放り込んだ。
　……意外と悪くないな、と思ってしまった。
「ね？　イケるでしょう？　ところで桜さん。お気づきになってないようですが、もしかして私の真似をしていますか？」
「手蹴さんの言ってることが分からないんだけど……？　私、全裸が最強装備とか思ってないわよ？」
「ですが桜さん。今、平然とあなたは胸部を露わにしているではありませんか」
「え？　……えええええぇぇぇっ！　あんのスライムぅ！　服だけ溶かす系スライムだったのかぁ～～！！」
　上半身に浴びた粘液が胸当てと衣服と下着を丸ごと溶かしてしまっている事に今頃気付いて、慌てて腕で胸元を覆う水上であった。