肌寒い1月の寝子島、
芽森 菜々緒は今月2度目の来訪を果たした。
「お願いだから、私から離れないで頂戴ね?」
隣でうずうずしている少女(?)へ念を押す菜々緒。
「分かっているとは思うけど、私の親戚の姪っ子っていう設定を忘れないで。それから――」
「えぇい! 理解しておるわ!」
菜々緒の言葉に、とうとう痺れを切らした少女(?)がじたばたと暴れ出した。
「このラピス・ドール・マクレガーを稚児扱いするな! ナナオは妾の家来なのだから、主君へ指図するなど生意気であるぞ!」
「……ええ、仰せのままに、ラピス」
はぁ、と溜息を吐く菜々緒。
この尊大な少女、
ラピス・D・マクレガーは、【星幽塔】と対を為す【月影塔】の第一階層サジタリウスの大元帥にして人形の魔女。実年齢は5000歳を超えると本人は豪語している、ファンタジー世界の住人だ。
そんな彼女がなんでそもそも、寝子島にいるのかというと……?
「サジタリウスの実験棟で妾が実験に失敗してしまってな? この万能が服を着て歩く妾らしからぬ失態かと思いきや! なんと、次元の壁を越えて別世界へ転送されてきたのだから驚きだ! そして、ようやく寝子島へ到着した! ここから【星幽塔】へは入れれば、あとは【月影塔】を目指すだけであるな! そのためにも……ってナナオ! 聞いているのか!?」
「はぁ……まさかフランスのセーヌ川沿いで行き倒れたコスプレ幼女が、寝子島の関係者だなんて思わなかったわ……」
菜々緒は今までラピスに相当振り回されてきたのだろう、端正整った顔立ちが気苦労で萎れてしまっていた。
と、そこへ偶然にも通りかかったのは
御剣 刀である。
「あれ? 芽森先輩? って、ラピスじゃないか。久しぶりだな、ってなんでここに?」
かつて【星幽塔】で武勇伝を幾つも作った御剣は、当時を思い出して懐かしむと同時に驚きを隠せない。
(俺もあの頃は大暴れしてたっけな?)
――『最速の剣刀士』として戦場を駆けた御剣も、いまや受験生だ。
寝子島での3年の月日は、体感で11年くらいに感じるけれども、それでもあっという間であった。
「いや、感傷に浸ってる場合じゃなかった。先輩とラピスはこれからどこへ行くんですか?」
御剣の問いに菜々緒が答えた。
「……ラピスを帰すために、ダンジョンへ向かうのよ」
「ああ、ダンジョンですか。寝子島はダンジョンがよく出現しますからね、って懐かしいなこのノリ!?」
御剣は最近忘れかけていたノリツッコミという名の伝家の宝刀を久々に抜いた。
このあと、ラピスが色々と無駄に話を盛って語ってくれたが、要点は以下の通り。
ひとつ、星幽塔の入り口のひとつである、鈴島の扉が反応しない
ふたつ、反応しない原因として、現在【星幽塔】が寝子島の上空から徐々に離れ始めている
みっつ、その影響か、寝子島が【星幽塔】と融合し始める現象をラピスが予知した
「つまり、一般人が迷い込む前にネコジマ・ダンジョンを踏破しないと、ののこが卒業する前にフツウがぶっ壊れるって事かよ……ついでにラピスが【星幽塔】へ戻るヒントもあるかもしれないのか。というか、何で【星幽塔】が寝子島上空から離れ始めてるんだ?」
割と事態はやべぇ状態だったので、御剣は頭を抱えてしまう。
「俺、受験生なんだけどな……あんまり協力できないぞ?」
訝しむ御剣に、菜々緒が言った。
「そんな刀君に朗報よ。ネコジマ・ダンジョン内は現実世界の時間の流れの6万分の1だそうよ」
「つまり、丸一日ダンジョン内で夜を明かしても、現実世界での経過時間は2秒足らずである! 学業に支障はないぞ!」
ラピスは御剣の腕を掴むと、グイグイと引っ張り始めた。
「というわけで! カタナよ! 貴様も妾直属の近衛騎士に任じてやろう! さあ、ダンジョン踏破へ出発だ!」
「え? 今から行くのか? だったら準備を……!」
あの塔の影響を受けたダンジョンなら、星の力を受けた装備があるといいだろう。
それと食料を買い込んだ方が安心だ。
御剣は準備と人員集めのため、ラピスと菜々緒と集合場所をを決めて、あとで合流する事になった。
この様子を見ていたのが、灰色猫の
テオドロス・バルツァだ。
「一応、ほかのもれいびにも伝達しておくか……」
もしかしたら、ただの「ひと」も偶然このダンジョンに巻き込まれてしまうかもしれない。
そうだとしても、たまにはRPGの登場人物よろしく、ネコジマ・ダンジョンの冒険を楽しんでみるのも一興だろう。
さあ、ネコジマ・ダンジョン攻略を始めよう!
今の寝子島には熱いバトルが足りねぇんだ……!
らっかみ!ラストスパートへ向けて、バトルとカオスを勝手に担当させていただく乾物です。
星幽塔(アストラルタワー)の設定を忘れてるみんなは、らっかみ!の世界設定を再確認してね!
【現在の状況】
寝子島のあちこちに星幽塔(アストラルタワー)のようなダンジョンが出現しはじめました。
この現象を放置すると、寝子島と星幽塔(アストラルタワー)が現実世界で融合してしまうそうです。
ラピスはこの脅威を己の発明品で前もって察知しました。
何故か星幽塔(アストラルタワー)へ帰れないラピスが帰還の手掛かりを得るためにも、菜々緒と一緒に参加者の皆様はダンジョン踏破を目指してください。
【ダンジョン内部の説明】
ラピスの発明品『ヨチーム』は、装置を頭に取り付けたまま寝ると、24時間後の出来事を予知夢として察知することが出来るスグレモノですが、夢をどれだけ覚えてられるかは本人次第という欠点があります。
今回、ラピスの『ヨチーム』で察知された脅威は3つです。
『入り組んだ迷路とぬるぬるスライム通路に気を付けろ!』
『ヌルヌルな巨大スライムキングとの戦闘!』
『本物はひとつ! ミミックだらけの宝物庫!』
基本はこの3つの対処法をアクションで明記してください。
決め打ちでどこか1つに絞ってもいいですし、3つとも乗り越えてやるぜ!と気合を入れてもオッケー!
また、ダンジョン内に入ると服装がファンタジーRPG風に代わります。
ジョブとかクラスとかもイメージした通りになるようなので、アクションに反映させるとよいでしょう。
ちなみに、菜々緒はサイバーな黒のぴっちりスーツ姿のアサシン姿にかわります。
ラピスはそのままの姿ですが、ヘンテコな発明品を幾つか持ち込んで使います。
(これら発明品には星の力が込められていて役立ちますが、大抵は使用直後に爆発します)
最後は宝物庫で『おたから』を獲得できれば踏破完了!
現実世界ではダンジョン突入から2~3秒くらいしか経過しないので、忙しい寝子島住人でも安心して参加できますね!
【補足説明】
ネコシマ・ダンジョンの入り口は、この日、いろんなところで発生しているようです。
ですので、事情を知らない「もれいび」や「ひと」が迷い込んでしまう事もあるかも……?
(勿論、巻き込まれた方々も、格好がファンタジー風装備に変身したり、しなかったりします)
というわけで、皆様のご参加をお待ちしてます!