芽森菜々緒の迷走｜リアクション

芽森菜々緒の迷走

　スライムキングは巨体を弾ませて飛び掛かってくる。
　着地すると、自身の身体の破片を飛び散らせて攻略班の面々の装備を溶かしてくるのだ。
「これ、えっちな奴だ！　ただのスライムじゃなかった！　えっちだと考えちまった俺は汚れてると思ったけど、これは仕方ないよな、うん！　だって火を見るよりも明らかだし！　万が一の時は助けるし、その、見ないからなー！」
『スライム＋ダンジョン＝いかがわしいこと』という方程式が目の前に体現している現状に、耐性のない桜井は顔を真っ赤にしながら槍で粘液を払い除けてゆく。
「御剣だって、この状況を見たらそう思うよな！？」
「よりによって俺に同意を求めるなよ、桜井！　誤解を生むじゃないか！」
『刀のえっち（３回目）』
「ほら！　海の視線が痛い！　しかもスケブでカウントされてるじゃないか！」
「くそー！　しれっとノロけるなよな！　俺だって晴月が、その……！　ああ、でもこの場に彼女がいなくてよかった、って、今は戦闘に集中、集中！」
　桜井は想いを寄せる風の精霊の女の子の顔が思い浮かび、顔を更に真っ赤に染めながら槍を振り回していく。
　ろっこん男子同士のじゃれ合いに、タルトが密かに熱い眼差しを向けているとは気付いていない桜井と刀であった。
「う～ん！　口では反発し合っているのに息ピッタリな男の子コンビ最＆高！　新刊が出ちゃう！」
「タルトさん、前！　前！」
「へ？　う、うわっ！」
　猫の半獣人姿のタルトは人間離れした跳躍力で後方宙返りで、スライムキングの突進を回避！
　シオは戦闘職ではないので、攻撃は召喚したコウモリに風属性を付与して吹っ飛ばしてもらい続けて、自身は周囲を見渡して指揮とサポートに徹していた。

「服が溶ける前に粘液を落としますね。浴びてしまった方は後退してくださいね～！」
「うわっ、このスライム、服を溶かしてくるんだけど！？　ちょ、ま、そこ溶けたら脱げる、脱げちゃう！　見えちゃう～！」
「ぎゃー！　もろに被ってしまった～！　きもちわるい～！」
　真白とラピスが半泣きでシオに駆け寄ってくるので、慌てて彼女は調合したお掃除アイテムで粘液をさっぱり洗い流してあげた。

　そうしている間にも、タルトはろっこんの効力で素早く部屋の中を飛び回る！
「お返しだよ！　スライム掃除だ！　デッキブラシで洗い流しちゃえ♪」
　タルトはアクロバティックな動きでスライムキングへ飛び掛かると、なんとデッキブラシから高圧水流を発射した！
　デッキブラシに水の星の力が宿っていたのだ！
　シオのコウモリが巻き起こす突風と合わせて、スライムを壁際まで追い込んでゆく。
「これだけじゃないよ！　そーれ、凍っちゃえ！」
　星の力を全開放すると、スライムが一気に瞬間凍結！
　そこへ殺到する刀と菜々緒、そして真白と桜井！
　彼らの足元には、七色の光の軌跡が描かれていた。
（アクセラレイトライン、進化能力だよ！　私の視界内に任意の線を描ける。その上に乗ったみんなは、一気に加速する！）
　壁際に追いやられ、凍って動きが鈍った敵へ、まず菜々緒がラピスの発明品の電撃ナイフを投擲！
　命中した途端、ナイフが爆発！
「そういう仕組みなのっ？」
「いや、単に失敗作だ！　だがダメージは甚大だな！」
　驚く菜々緒にラピスはドヤ顔で開き直る。
　次に桜井が風の槍を突き刺し、スライムの体内で暴風を解放する。
「粉々にふっとべ！」
　凍った粘液が破裂するように吹っ飛ぶと、ようやく弱点の核が剥き出しになった。
　次に弾丸のように飛び込んだ真白がハンマーを振りかぶる。狙うは、分裂して奇襲攻撃を仕掛けてくる分身体だ！
「お見通しだよ！　海ちゃんのろっこんで加速した、このハンマーの一撃でホームランしちゃうぞー！　ラピスちゃん、見ててね！　服を溶かされた恨みー！」
　鉄槌直撃、スライムの核が宙へ飛ぶ！
　そこへ飛び込んでいく刀は居合いの構えのまま、低い姿勢で前へ大きく踏み込んだ。
（そういえばスライムに刀は効くのか？　刃が素通りして斬れなさそうだけど。だが、斬れないものを斬る……いい。サムライらしくて最高だ！）
　途端、刀の目が星幽塔の大戦以来の鋭さを取り戻した。
　刀身を鞘に引っかけるようにして力を溜めて、加速しながら弾きとばすように抜刀！
　海のろっこんも上乗せされ、刀の斬撃速度は過去最高に到達する！

「――加速！　完了だ！」
　見事、敵の核の真芯をぶった斬った刀。
　今度こそスライムキングは分裂するいとまなく死滅していった……！

　その後、シオは凍結したスライムキングの欠片をサンプルとして採取。
　あとで星幽塔のギルドで実験してみようと、今から心を躍らせていた。

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芽森菜々緒の迷走

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