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さよならのむこうがわ ～深淵特急『死兆星』の旅～
【食糧庫車両】
「おお、僕が、僕自身がアイスバブル！ アイスバブル・ヴェルトだ！」
アイスバブルとは凍った湖面の中に閉じ込められた気泡のことで、それはそれは美しく幻想的な光景である。
が、どう見ても湖ではないし、気泡でもない。
ほしびとのヴェルト・レトランジェはボウガンを手にアイスバブルよろしく固まって見せながら、その小柄な体を大いに震わせていた。
「冗談はさておき、ここは……とてもじゃないが人の居られる場所ではないね」
天井からは吊り下げられた透明なおばけ肉が、それこそアイスバブルのように浮かび上がっている。
どうやら食品を保存しておくための冷凍車両のようだ。
あたりを見回すと牛の頭の『コックでろろ』が３体ほど通路を歩き回っていた。
厄介だな、と思ったが。
ヴェルトは魔火の光の宿ったボウガンを床や壁に向け、放つ。
凍った床や壁から湯気が上がり、少しずつ暖かくなっていくのがわかる。
なるほど、幸いにも魔火の光を使えそうだ。
「なんか気が付いたら列車の中にいた……滅茶苦茶寒いんですけど！ なんだここ？」
女子高生化神 小次郎があたりを見回すと、大好きな吉田 熊吉先生が裸にまわし姿で仁王立ちしていた。
小次郎は感嘆の声を上げる。
「流石は熊センセー。この寒さの中でまわし姿とは痺れる！ そこに憧れる！」
「化神も来ていたのか。このくらい全然寒くないっ！ どすこい！」
強がりながら『牛どろろ』にぶつかっていく熊吉だが、でかい牛どろろには効いている様子がない。
小次郎は、状況はよくわかっていないものの加勢を決めた。
「あの変な牛を倒せばいいんだな。相撲部マネージャーとしてあたしも参戦するぜ」
強くイメージを思い浮かべて念じると、ろっこん『幻術・七宝行者』が発動した。
牛でろろの眼前に、幻影の熊吉が現れる。
「ングォ？」
幻影の熊吉が右へ左へと動くことで牛でろろは混乱し、隙が生じる。
本物の熊吉はそれを見逃さずに張り手の連続、そして見事に突き倒した。
「グオ～ッ！」
手に持っていた大きな肉切り包丁が転がり、牛でろろ自身もかなりダメージを負ったようだ。
熊吉と小次郎のふたりは顔を見合わせ、大きく頷いた。
「鬼熊殿？」
熊吉を見た狐妖怪の片夏 阿呂江が呟いた。
たしかに鬼のような強さを見せた熊吉だが、鬼熊ではない。
「熊の妖怪の、鬼熊殿じゃよな？」
決して妖怪ではない。
「あわれ、あんなに毛皮を剥がれてしまったのか……」
どうやら阿呂江は熊吉を知り合いの妖怪『鬼熊』と勘違いしているようだ。
「ここは助太刀せねばならぬな」
両手を叩くと、変化の術で大男に変身する。
「どすこいじゃあ！」
防寒着を着用し、狐耳に尻尾つきという出で立ちだが、本人は力士のつもりのようだ。仮に『阿呂江乃海』とでも呼ぼう。
「牛ども！ 儂は通りすがりの狐力士じゃ、覚えておけ！」
「狐力士？」
阿呂江乃海の“土俵入り”に、熊吉と共闘していた小次郎は困惑している。
「味方……？」
阿呂江乃海はまたわりをして見せると、叫んだ。
「儂も加勢するぞ鬼熊殿ー！」
「鬼熊？」
何故鬼なのかわからないが、味方ではあるようだ。
阿呂江乃海はゆっくり腰を下ろし、立ち会いの構えをとる。
「こちとら命がかかってるんじゃぁ。３対１でも卑怯とは言うなよ、牛ども～！」
かくして阿呂江乃海、鬼熊ならぬ熊吉、そして幻影の熊吉、３体が一斉に突撃開始！
「グモォ」
牛でろろは物言いをつけるが、待ったなし！
「グ、グモオ～～～！」
こうして１体の牛でろろは霧散した。
「熊センセー！ 大丈夫か！」
駆け寄る小次郎を見て、力士姿から戻った阿呂江は察する。
「ほう、鬼熊がおなごに好かれるとはの」
「あ、あたしは別に熊センセーのこと好きって訳じゃないし！ 好きって訳じゃないし！」
真っ赤になって否定する小次郎に生暖かい目を向け、
「邪魔者は消えるぞよ」
阿呂江はその場を去りながら、手には狐火を出現させた。
「凍えている者、動けない者は暖を取れ。燃やせるものがあれば火の勢いは増すはずじゃ」
ゴルフボール大の狐火を周囲の者に飛ばしながら、去っていく。
「助かった。しかしあんな知り合いがいたかな？」
首をひねる熊吉に、
「すげー寒いからハグして暖めてあげても良いんだけど！ 良いんだけど！ 仕方無くだから！」
小次郎は熊吉にハグしようとするが。
「俺は大丈夫だ。だがお前は冷えるとよくないな。ほら」
熊吉は浮かんでいる狐火を無造作に掴み、小次郎の前に差し出した。
「あったかい……」
熊吉の気遣いが嬉しい小次郎だった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2024年02月26日
- 参加申し込みの期限
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- 2024年03月04日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2024年03月04日 11時00分
