さよならのむこうがわ～深淵特急『死兆星』の旅～｜リアクション

さよならのむこうがわ～深淵特急『死兆星』の旅～

　
　ビシッ！
「グモォ！」
　ウォルター・ブラックウッドのチョークが牛でろろの額にヒットして、肉切り包丁を振り回している。
　おそらく最後の１体だろう。
「さすがにこのくらいじゃひるんでくれないねぇ。……倉前、大丈夫？」
　ウォルターは倉前と牛でろろとの間に入り、チョークでけん制しつつ間合いを詰められないよう後退していく。
　声をかけられた倉前七瀬は、寒さでガタガタ震えていたが、力強く答えた。
「ウォルターさん達が戦っとるんやけん、僕も諦めませんよ」
（それに、ここで終わりなんて僕は絶対イヤです）
　七瀬は『空気を読む』と強く念じた。
　ろっこんの力で召喚された本のタイトルは「氷の世界」。
　ペンを懐から取り出すと、本にこう書き込んだ。
『極寒の車内はだんだんと、春の陽気に包まれる』
「せめて、気分だけでも変われば動きやすくなるはずです」
　するとどうしたことだろう。実際の寒さは変わらないはずだが、空気が変わったように感じる。
「なんだかあったかい気分になってきたねぇ。助かったよぉ」
　ウォルターは寒さで震える手をおさえて、チョークを握った。

「フシギだな。ここらは春の気分だ」
　そこへやってきたヴェルトは、あたりを見渡すと、
「火もしっかり燃えるというものだ」
　と魔火の光を使ってボウガンの矢に火をつけ、牛でろろに向けてボウガンを構える。
　ただの矢では仕留め損ねるかもしれないので、よりダメージを与えられるように火矢を放とうというのだ。
　そして、牛でろろの目玉を狙って引き絞る。
「グアッ！」
　見事に命中！
　が、目玉に矢を受けた牛でろろは顔を覆い暴れまわり、手に持っていた肉切り包丁がウォルターに向かって一直線に飛んできた！
「危ない！」　
　七瀬がおばけ肉を避けて横に跳びつつ、持っていた本を投げつける。
　肉切り包丁は本に突き刺さって、失速。
　間一髪、ウォルターはなんとか倒れ込みながら避けて、傷つかずに済んだ。
「いたた……」
　ウォルターが倒れ込んだのは、七瀬の上だった。
「ごめんねぇ」
「よかったです。ろっこんの効果は消えてしまいますけどね」
　青黒い靄のようになり消えていく牛でろろを見ながら言った。
「ありがとうねぇ」
　そこへ、サニーを連れたまうやヴェルトがやってきた。
「……おや、猫が」　
「サニーです。前方の車両に連れていかないと」

「さあ、次の車両へ行くんだよ」
　ヴェルトがサニーを手招きする。
　サニーが車両の前方に着くと、壁に小さな穴が開いた。
「ニャー……」
　不安そうなサニーに、まうは優しく声をかける。
「サニーちゃん……この先も、頑張ってね」
（黒白さんと会える事、良い未来を迎える事を、まうもまうまうも願ってるから……）
　七瀬もサニーに声をかけた。
「さあ、キミの大切な人のところに行くんですよ……！　皆の想いを、頼みましたよ」
　そんな皆の思いを背負い、サニーは前の車両へと進んでいく。
　