携帯戦記カプセルギア　第八話「Re:play」｜リアクション

携帯戦記カプセルギア　第八話「Re:play」

　ここから先は、大人の仕事。そう線引きをされたなら、子供である稲積柚春にできることはない。
　大規模メンテナンスをして『カプセルギアの安全性を高めますよ』と言われたって、機能の改善に口出しできるほどカプセルギアに詳しいわけではないし、システム関係に強いわけでもない。それこそ今回は警察が関わるような事件なのだから、捜査の邪魔をしないことこそが協力になるのだろうと思うけれど。
　それでも、ウォルター・Bへ送られてきた手紙の謎は解けていないままだから、じっとなどしていられない。
（ワットに手紙を送ったのは、きっとハートのイヤーカフの男の人だよね）
　そうと本人が認めたわけではなかったが、話した感じから柚春には確信があった。恐らく、ウォルターだって気付いているだろう。
「僕はあの人がカプギアを嫌いだとは思えなかった。僕らと守りたい物が違うから、ぶつかってしまう……そんな気がする」
「となると、相手は完全悪ではないってことかい？」
　耳福池に向かいながら、２人は今まで集めた情報を整理する。模型店の店主から聞いた子供たちの様子、店や公園に集まる子供たちから聞けた話、そして先日会ったハートとダイヤを模した端末を所持した２人組。
　他にもクローバーが観測されたというのだから、トランプのマークをシンボルにした組織が動いていると見て間違いない。だが、手紙の文面を思い返したウォルターは、柚春の考えを肯定も否定もできなかった。
　どうしても苦い顔になってしまう彼に、柚春は「大丈夫だよ」と微笑みかける。
「僕らが一方的に信じているものを押しつけてしまったら、きっとあの人と同じやり方になってしまう。だから僕は、この手紙の差出人に会えたなら話をしてみたいと思っているんだ」
　自分に不都合があっても、相手が悪いのだと騒ぎ立てるほど子供ではない。が、自分の考えこそ正しいと言い切れるほどの自信も柚春には無い。それこそ相手の動機が『守りたい』という気持ちからだったなら、もう少しやり方があっただろうと思いはしても、全てを否定する理由にはならないはずだ。
（もしものときは……）
　相容れない理由だとしても、きちんと受け止めてあげたい。その上で、本当にぶつかることでしか解決できないとしても……自分は、独りではないのだから。
　ボディバッグのベルトを握りしめ、その存在に心強く思う。透明窓のついたボディバッグには、いつものようにворが食えない笑みを浮かべて座っていた。

　一足先に耳福池へと訪れていたスピカ・フォーツは、冷たい風が吹くのも気にせずにじっと待った。
　水鳥を探すように湖面を見つめる少女が、今回の事件の鍵を握るだろう事は予測している。そして、少女が多くを語らないことも承知の上だ。
「貴女には……色がないって。思ったけど」
　マスター・ワンの一件で一方的に知っていた少女。カプセルギアを用いて悪事を働くユグドラシルと関わりがあり、寝子島のギアマスターが束になって挑まねば苦戦を強いられる、複数ギア使いのクー。
　また、あのときのように混沌へ陥れようというのか。
　同じカプセルギアという玩具で遊ぶ子供として、解り合えないことが歯痒い。スピカは少しでもクーの意図が知れないかと、返答を急かさないようにゆっくり言葉をかけ続けた。
　なんだっていい。裏があっても、悪意しかなくても。

「違うみたい。なら……教えて。貴女の色」

　言葉が難しいなら、バトルを通してでもいい。
　スピカはいくつかのギアが入った鞄の中から、この場に相応しいギアを選び取り、もう一歩近づいてみた。
　前回の邂逅と同じトライアルβであれば、僅かにでも興味を引きつけられるはず。
　警戒をさせないように、慎重に。βを手に歩み寄れば、クーは気怠そうに振り返った。
（見せて。これは、貴女の意思なのか。それとも……従わなければ、いけないのか）

　これが遊びの延長であろうと、事件絡みの局面であろうとスピカのすることに変わりはない。
　ただ全力で、遊び場を守るために戦ってみせる。それだけだ。

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