携帯戦記カプセルギア　第八話「Re:play」｜リアクション

携帯戦記カプセルギア　第八話「Re:play」

　大人の都合ではなく、亜依子としての最後の意思表示。
　着々とクリーンアップしていく姿は、誰にも止められなかった。
『マスター情報を書き換えます。顔認証、声紋、クリア。……おとうさんではなく、プロフェッサーKと呼称』
　このまま共依存をするよりも、海堂には今を生きて欲しい。心を持っているからこそ、亜依子は思い出の中に眠ることを選んだ。これからはA.I.C.O.としてだけ存在し、海堂と共にカプセルギアを見守っていくのだろう。
　全てが万々歳ではない。元に戻ったとも言えない……始めから、異質だった。
　リアスクリーンに映る少女がパッとマネキンのような女性の頭部を表示させる。
「亜依子……」
　返事はない。まだシステムの処理中なのもあるだろうが……おそらく、もう。
　どんな言葉をかけるか躊躇いながら、スピカ・フォーツは守り石を握りしめた。
　結局、今回の事件は全て海堂の自演だった。そんな一言では片付けられないほどの葛藤があり、悩んだ末での行動だとしても、何も壊れていないしスピカが癒やせるような傷はない。
　あとは海堂が心身共に元気になってくれれば救いはあるけれど、先ほどから瑠樹が発動しているろっこんだって、一時的なものにはなっても根本的解決には繋がらない。

　これから、どうするのか――そう問うていいものかと迷っていると、扉が開いた。
　以前、模型店に現れたハートのイヤーカフをした男。傍らには、クーまでいる。
「そろそろお別れの挨拶は終わったかい？」
　にやりと笑った男は、小さなUSBメモリをチラつかせた。

「させるかっ!!」

　A.I.C.O.にとって危険なものなら、使わせてたまるか。そんな強い意思で立ち向かう白石龍樹は驚く。
　つい昨日まではただのラジコンだったムテンにも、駆け出すエフェクトがついて俊敏に見えるし、同じように怒ってくれているのか、獲物を前にした高揚感のようなオーラを纏っている気がする。
「よし！　ムテン復活だ！」
　生き返ったムテンが喜んでいるとわかり、龍樹もガッツポーズを決めて興奮気味だ。その様子を見ていたスピカも、遅れをとってなるものかとギアを取り出そうとし――ややあって、Qliphothを選び取った。
　場に応じて使用するギアを変えるスピカにとって、Qliphothは『決戦兵器』のひとつ。トライアルシリーズ３機の答えとして作成されており、とあるギアと対になるようにデザインされている。
「おお怖い。こんな恐ろしいものに手を出すなんて、周りの大人たちは何をしているんだ」
　大仰に振る舞う男を訝しみながらも、柚春はворを構えながら慎重に問う。
「恐ろしい……？　みんなはカプセルギアが大好きなだけだよ。あなただって大切なことがあるから、こんな」
「ああそうさ、愛し子の目を覚まさせるのは私の役目！　危険なシステムから守るんだ！」
　高笑いをする姿は、末恐ろしさよりも異常な雰囲気があった。何かを盲目的に信じているからというよりも、どこかで何かが外れてしまったかのような――血走った目が、何かを訴えていた。
　もしかすると、彼は既にユグドラシルの手に堕ちてしまったのかもしれない。であれば、話し合いは無理だ。
　この任務を遂行するために、クーは立ちはだかるギアマスターたちに向かって３機のギアを放つ。人数だけで見ればそれでもこちら側が優勢ではあるが、柚春やラッセルは場数も少なく器用に立ち回るのは難しい。
　だったらとカロデも応援に入ろうとするが、元々ギアを凝って組み立てているタイプでもなく、元同僚と呼んでいいのかわからない男がギアを取り出したなら、一気に戦況は不利になるだろう。
　スピカの操るQliphothは短期決戦型。シェオル効果で赫醒状態に入れるのは90秒、その後は性能を大幅ダウンさせるデメリットを持っている。ある程度はヘッドの1iでデメリットの無効化が永続的に狙えるものの、常に完全無効化とはならず体力の残量と運で効果が変動してしまう。
　なら海唯が応戦するか――男と１対１であれば勝てるだろうが、他のギアをサポートしながらだと、それも難しい。
　せめてあと１機、戦えるギアが味方に付いてくれれば戦力差に余裕が生まれるのに。

「ったく、みずくせーなぁ！」

　開きっぱなしになっていた扉の向こうから、白虎カプリッチオが駆けてくる。ラッセルの親友である海道　千里がやって来た。
　あまり重苦しい話をして巻き込みたくなかったラッセルは、千里に事件の詳細は伝えてない。それでも、こうしてギアを持って戦ってくれることの、なんとありがたいことか。
　ここでも冷静に落ち着いた蒼が指揮を執る。いくら相手が複数のギア使いだろうが、天才的な動きを見せようが、楽しんでみせることが何よりの勝利だし、海堂を安心させられる。
「A.I.C.O.はみんなの笑顔のために生まれてきたの、恐ろしいものとは違うから！」

　こうして、復活したカプセルギアによるバトルは瑠樹たちの勝利となり、ユグドラシルについても複数の罪状疑惑があがったことで、強制捜査が踏み切られることになった。
　ここから先は、各々の舞台で戦いが続く。一筋縄ではいかないことも、多々あるだろう。
　失ったもの、取り戻せたもの……それにも違いがあるのかもしれないが。
「空羽っ！」
「海唯おねえちゃん……！」
　幸せそうに抱き合う姉妹だけは、確かにそこにいた。

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あとがき

担当マスター：浅野悠希
ファンレターはマスターページから！

みなさまご参加ありがとうございます、浅野です。
この度は大変お待たせして申し訳ありませんでした。
リアクションはお楽しみ頂けたでしょうか？

以前から、なにかとギアマスターにちょっかいをかけていた、海堂とユグドラシル。
その２つの謎に迫るというのは、とても辛いこともあったと思います。
子供が子供のままでいられないように、何もかもそのままであり続けるのは難しいこともあるでしょう。
けれど、今回みなさんが見せてくれた勇気や優しさ、慎重で時に大胆なところ。全てが大人を動かす力になったように感じました。

ひとまず、辛い戦いはこれにて完結。
あとはそれぞれの舞台で戦い続ける人、楽しく遊ぶ日々に戻る人、新たな野望を見つける人など、個々の物語が始まります。
平穏の訪れた寝子島で、良きカプギアライフを送って下さいね！

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お時間ありましたら、よろしくお願いします～！

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