携帯戦記カプセルギア　第八話「Re:play」｜リアクション

携帯戦記カプセルギア　第八話「Re:play」

　川沿いに広がる病院の敷地内にある公園は、さして広くない。
　その上、子供が遊ぶような遊具も見頃の花もないとくれば、ただ冬色が物寂しさを醸し出すばかりだ。
「あんなことがなければ、ここもカプギアで遊ぶ子供で賑わっていただろうに」
　嘲笑する男は、口先こそ残念がっているが本心を隠すつもりはないらしい。
　その態度に、瑠樹は疑問の言葉を投げかようとした。どうしてそんな酷いことを海堂の前で言えるのかと、お見舞いに来るほど仲良しではないのかと。けれど、その言葉が届くような相手なら、こんな笑みを浮かべはしないだろう。
「また、みんなと遊べるように……オレが、カプギアさん達を取り戻すよぉ！」
　大人に頼めないのなら、自分の力でやり遂げる。ラピちゃんを力強く抱きしめながら、瑠樹は決意を秘めた瞳で男を見つめ返した。
「取り戻す、ねぇ。確かに今のままでは可哀想だ、相応しい導き手の元でこそ輝ける逸材だからな」
　それを聞いて、龍樹は一瞬警戒を解いた。この大人は、カプセルギアの良さをわかっている。きっと、小難しいトラブルに巻き込まれたA.I.C.O.だって助けてくれると――輝きかけた顔は、そのまま固まった。

「こんな下らない小銭稼ぎで終わるシステムじゃないんだよ」

　馬鹿にしたような笑いを堪えもせず、男は海堂の様子をちらりと見た。
　子供たちの夢や憧れを背負う気分はどうだったかとか、逃げきれなくて残念だったなとか。
　話の大半は龍樹に理解できなかったけれど、明確にわかることが２つある。
「まさか、まだ自分が何を生み出したのか理解してない……なんて言わねぇよなぁ？」
「わかってないのは、お前だっ！」
　ひとつは、海堂がとても苦しんでいるということ。
　そしてふたつめは、A.I.C.O.は誰にも下らないなんて言わせてはいけないこと。
　ぎゅっとムテンを握りしめ、一太刀浴びせたい気持ちを静めるように奥歯を噛みしめた。ラッセルから聞いたことが本当なら、海堂にとってA.I.C.O.はただのシステムではないし、他人がどうこうしていいものじゃない。

　だけど。こんな時に戦わないのも、きっとカプセルギアじゃない！

「言ってくれ海堂さん！　あんたがどうしたいのか言ってくれないと、俺たちは動けない」
「今さら、私たちがユグドラシルなんかに尻尾巻いて逃げるとでも思う？」
　カザリューが咆哮をあげるように空を仰ぎ、Diablo Azulが頼もしく両肩のキャノン砲を構え。続いてムテンも、いつでも駆け出せるように身体を屈めた。
　そのどれもに、華やかなエフェクトはない。だけど、自分たちは……カプセルギアは戦える！

「楽しいカプギアさん達との日々を取り戻す為にも、頑張るよぉ……！」

　ステップを踏んでラズちゃんが構えれば、海堂とて覚悟を決めなければならない。しかし、その一声を放てば確実に子供達を巻き込んでしまうとわかっているから、口にするのを躊躇った。
　こんなとき、刑事として何を守るべきかは清恋には当然わかっている。大人としてどうするべきかわからぬほど、若くもなければ熱い性分でもない。
　だけど、ここで立ち塞がるのは違うと思った。
「あなどれませんよ、子供達も」
　あの日の事件現場でも、ギアマスターの子供らは成果を上げた。今日だって、事件解決に向けて懸命に力を合わせている姿は、ごっこ遊びだとバカにできるものでもないだろう。……もっとも、関係者以外の侵入を封鎖していた現場に足を踏み入れるのは、褒められたことではないのだけれど。
「どうりで。全て自分が悪いと言ったところで……引き下がってはくれないわけだ」
　ふーっと長い息を吐き、海堂はゆっくり子供たちの顔を眺めた。痛々しさがまだ残るものの、その顔は踏ん切りがついたようにも見える。
「そうだな……君たちなら話してみてもいいかもしれない」

　――『亜依子』を守ってくれないか。

　それは、今は亡き愛娘の名前。
　１人では守り切れないんだと嘆く海堂は、ユグドラシルから逃げることではなく立ち向かうことを選んだ。