１３７１年の寝子島取材｜リアクション

１３７１年の寝子島取材

理事長室にて

「この度は取材にご協力いただきありがとうございまーす」
　理事長室への入室を許可された葵は、応接ソファに腰かける野々ととおと、その肩のあたりに漂う餅々きなこへ深々と頭をさげる。
「特に理事長せんせーはお忙しい中……」

「堅苦しい挨拶はいらないよ。もう何でも聞いちゃって。ののこのこととかののこのこととか」
　ののこアピールが暑苦しいが、とりあえずスルーだ。
「あ、これ、りじちょーのびょーきだから、むししていいよ」
　きなこもそう言っている。
「……ふっふふー、じゃあ早速質問するねー」
　葵はととおの向かい側のソファに座り、テオとミラもソファに下して取材を開始する。

「じゃあまず、霊界について聞きたいんだけどー。寝子島電鉄霊界線について、これ何？」

　口火を切ったのは、霊界の顔役で花緑青駅の駅長でもあるきなこだった。

「霊界をはしる電車だよ。しんだ列車の霊なんだ。
人やいきものは、しんだあと、魂になってこの魔行列車にのるの。
でもずっと乗り続けていると深淵まで行っちゃうから気を付けてね」

「春に、魔行列車の事件があったよねー」
「ああ」とテオが面倒そうに口を開く。「あの事件は解決したが、ダメオヤジの落下の影響で寝子島と霊界はつながっちまってな。あやかし連中がこっちに顔をだしたり、寝子島のやつが霊界に行ったりできるようになっちまった」
　テオの言葉を聞き、ととおは上目遣いで肩を竦める。
「その節は迷惑をかけたねえ。でもおかげで、有能なきなこちゃんと出会えたよ」
　お気楽ご気楽結果オーライな物言いに、ののこの父なんだな、と思わずにはいられない。

「ちょっと前に青黒い蝶が出て、みんなへんになっちゃったでしょー？　あの青黒い蝶って何だったんだろう？　何か知ってる？　霊界に関係あるの？」

「どろでろろのちっちゃいやつ。分離でろろの一種だとおもう」
　きなこが即答する。
「にんげんの負の感情をすこしずつあつめる、はたらきバチみたいなものなんじゃないかな」

「その、どろでろろって何？」

「きなこちゃんが言ってたあれかい？　聞いたけど理解できなかったよー」
　ととおも、名前だけは聞いたことがあるらしい。
　これも自分向きの質問だと思ったようで、きなこが答える。
「どろでろろは、よくないもの。にんげんの負の感情は霊界にたまりやすい……そういうものがこりかたまったもの……といえば、なんとなくつたわる？」
「人間がもつ負の感情が、泥が水に沈むみたいに霊界にたまっちゃったってことー？」
「そんなかんじ。どろでろろはむかしからいた。『カラオモイ』、『化け夜露』、『深泥王』、そんななまえで。ながい年月をかけてたまって、ときどき、かたちをもつ」
「オレが思うにアレは、『粘菌』みたいなものじゃねえか」
　テオが口を挟む。
「人間のように個体として意思を持っているわけでじゃない。集合体となったとき意思を持っているかのような振る舞いをして世界を飲み込もうとする。説得は通じない。粘菌に話しかけて襲わないでと言っても止まらないだろう？　そういうものだ」
「私はあれが怖いです……」
　ミラがぶるりと身を震わせる。
　葵は取材が核心に近づいてきていると感じて、次の質問を放った。

「じゃあさ、なんで黒白滴くんにどろでろろがくっついてんの？」

このページにイラストを設定する