１３７１年の寝子島取材｜リアクション

１３７１年の寝子島取材

放課後、人気のない廊下にて

　葵と分かれたねこねこ記者は、想花を追いかけて廊下を走った。
　なぜか。
　あの子から、特ダネの匂いがしたからだ。
　想花は、重たい足どりで廊下をゆっくり歩いていた。
　前髪が顔にかかって、鬱陶しいのか何度も手で払っていた。
　彼女の行く手には図書室がある。そこへ向かおうとしているのかもしれない。
　図書室に入ってしまう前に想花を捕まえたい。
　いままでの取材で、図書室には「としょいいん」という人たちがいつもいることは把握済み。
　その人たちには見つかりたくない。
　自分の姿はあまり人に見られていいものでもないから。
　そう思ったねこねこ記者は、スピードをあげた。
「にゃにゃー、待つにゃ！　話を聞かせてほしいにゃ！」
　想花は足を止めた。
　どこから声が、というようにあたりをきょろきょろと見回す。
　ねこねこ記者は必死に呼びかける。

「ここにゃ！　吾輩は週刊かぎしっぽのねこねこ記者にゃ！」

　想花はようやく、足元でぱたぱたするカギしっぽのブチ猫に気づいた。
　想花はまじまじと、ねこねこ記者を見つめた。
「猫が人語をしゃべってる？」
　ねこねこ記者は、肉球で器用に鉛筆と手帳を持って話しかける。
「声がきこえてるみたいでよかったにゃ！　お話をきかせて……」
　想花はねこねこ記者の言葉を最後まで聞かず、胡乱な顔で踵を返す。
「疲れてるんだ……ストレスかも……うん、きっとそう……今日は早く帰って寝よう……」
「まってにゃ！　我輩は幻覚じゃないにゃ！　れっきとした猫の記者で、お話をききたいだけにゃ！」
　なおもしつこく絡むねこねこ記者に、恐る恐る顔を向け、想花はとうとう返事をしてしまった。

「ぼくに何か用？」

　ねこねこ記者の表情がぱっと華やぐ。
　その瞬間、想花は、しまった、と思った。
　ビビりでヘタレなくせに、人語をしゃべる自称記者の猫に興味を持ってしまった自分に自己嫌悪である。

「はぁ。つまり君は、もう一人の記者と手分けして、『あやかし』や『霊界』、それに『どろでろろ』について取材してる……と」
　人気のない廊下の隅にしゃがみ込んで、想花は声を抑えてねこねこ記者の取材を受ける。
　はたから見たら、ぼさぼさもっさり髪の自分がぶつぶつ言ってるのは、とても怪しくみえるだろう。
　早めに取材を切り上げなければと思っていたのだが、どろでろろと聞いて、想花のなかでカチッと今までとは違うスイッチが入った。
「どろでろろ」
　想花は呟き、顔をゆがめる。
「どうしたにゃ？」
　想花は想っていた。
　黒白滴という少女のことを。
（寝子高でできた初めての友達で……そして、ぼくが片想いの恋心を抱いた人）
　彼女の顔を、声を思い出した途端に胸が苦しくなる。
　あの時のことを、どうしても思い出してしまう。
「滴さん……どうして……」
「……話してほしいにゃ」
「でも……どう話していいか」
「上手じゃなくていいにゃ。話して楽になることもあるかもしれないにゃ」

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