草木も眠るとはよく言ったもの。
丑の三刻。猫いっぴきも鳴かぬ闇夜であった。
異変に初め気づいたのは、
ミラだった。
ぬるい風の吹く中、白猫は陰るおぼろ月を見上げて発した。
『テオさま! 天からなにかが……あら?
もしかして、<あの方>でしょうか?』
同刻、
テオもまたみけんに険しくしわを刻む。
天の一点、灰雲引き裂き落つる赤光をにらみ、灰白猫はごろりと喉をうならせた。
『やれやれ……面倒なことになりそうだ』
程なく赤光は地へ落下した。寝子島へ轟音駆け抜けるも、現の響きでは無かったか、気づく者が限られたのは幸いながら……それはまるで、程なく島を震わす戦の到来を告げる、鏑矢の鳴響がごとしであった。
黒煙噴き上げ、蒸気機関車が夜を駆ける。しゅ、しゅ、ぽ、ぽと旧市街を重たげに走り抜けてゆく。
ただの列車でないことは容易に知れた。車体は淡く蒼白な輝きを帯びているし、それにこのあたりには線路がない。家々も、人々もするり擦り抜け、ブレーキを置き忘れてきたかのようにひた走る。
とぼけた酔っぱらいの身体を列車は轟と通り抜け、よれたスーツの中年男の目を白黒とさせた。
「さて……なんの騒ぎですか? これ」
好奇心をにじませた瞳で、
吉住 獅百合はかたわらのテオへ尋ねた。
物腰穏やかに見えて粗野な一面も持ち合わせる獅百合は荒事の気配に思わず心躍らせたが、灰白猫の仏頂面は深まるばかり。
『さっきの衝撃で、寝子島と
<霊界>が繋がっちまったようだ。あれは、
<魔行列車>だ』
「霊界に……魔行列車? 興味深いですね」
『何となくわかるだろうが、そんないいものじゃないぜ。死んだ人間を霊界へ送り届けるための列車だ』
天界。魔界。冥界。その他、数多の小世界。この世にはいろいろな世界があるものだ。寝子島が存在し人間が暮らすこの現実世界がその中の一つに過ぎないことを、寝子島の一部の人々は既に認識している。
霊界もまた、数ある世界の一つ。死者たちが暮らす異界だ。
テオはおもむろに、前足で目の前の空間めがけ猫パンチ。するとどこかから切り分けてきたか、現れた紙上へインクが泳ぎ、浮かぶ文字が蝶々めいて飛んできて、やがて一枚の地図を成した。
どこか猫の横顔にも見える寝子島の全景と、そこへ曲がりくねる二本の線が走り、ところによっては交わっている。
『
<寝子島電鉄霊界線>。その路線図だ』
「路線図? 寝子島の地図みたいですけど」
『そうだ。現世と霊界はごく近しい、隣り合わせの世界なのさ。寝子島で死んだ生き物は、島の各所にある駅から魔行列車に乗り、霊界へ向かう。いわゆる成仏する、ってやつだな。本来なら生きてる人間が目にすることはねえ……はずなんだが』
と、テオは歯噛みした。
『今回は、霊界からの乗客を、寝子島にバラまいちまったようだな』
まず目についたのは、九夜山だ。いつしか夜霧が薄く漂う夜空を衝いて、巨大な骸骨が山頂付近へ鎮座し眼下の街並みを睥睨している。
街中には旧市街や星ヶ丘の別なく、河童や猫又、一本だたらに小豆洗い、塗り壁に一つ目小僧といった物語でも著名な妖怪たちが闊歩していた。
現れたのは和の趣きのみならず。
墓場からはゾンビが湧き出し、新鮮な肉を求めて徘徊しているし、空には蝙蝠羽を生やした吸血鬼が寝子島の風を乗りこなし、悠々と曇天の下を舞っている。
空をあおいで狼男が遠く咆哮を響かせ、木天蓼湾ではクラーケンが触手をくねらせ上陸を開始しようとしていた。
霊界には幽霊を始め、多くの妖怪や怪物たち……総じて
『おばけ』と呼ばれる存在が息づいているのだという。
現世へも連綿と語り継がれてきた怪異たちは、この朧夜へ確かに、その姿を現したのだ。
「……というか、
私も『おばけ』になっちゃってます?」
気がつけば獅百合の身体は、眼前で夢まぼろしのごとく繰り広げられる光景へ同調するように、人ならぬ姿格好へ変化していた。
『ああ、そのようだ。まあ一時的なものだろうがな』
「へえ。これは面白いですね」
変化に驚くというより、興味深く自身を見下ろす。
獅百合と同様に、寝子島の住人たちの中には、おばけの姿と能力を得た者たちがいるようだ。
と、獅百合は当然の疑問を口にする。
「でも、『おばけ』がこんなにハッキリ見えていたらまずいんじゃないですか? いくら深夜だからって、すぐにバレますよ」
『ああ、こいつはやばいぜ。それにこのまま霊界と寝子島が繋がりっぱなしじゃ、おばけどもが際限なく雪崩れ込んでくるだろう。そうなっちまったら……はっきり言って、寝子島は終わりだな』
テオの言葉は決して脅しではない。寝子島が、世界がこの世ならぬ者によって支配される、闇の坩堝へと変貌する。
「それで、何をすれば?」
頼もしく言った獅百合へ、テオはうなずく。
『
列車から飛び出したおばけどもを霊界へ送り返す!
暴れてるおばけを大人しくさせて、霊界線の各駅へ停車している魔行列車に乗せてやってくれ。
なんなら力ずくでもな』
ふむ、とテオは思索にふけるそぶりを見せる。
『あとは……』
「あとは?」
『あ~。いや。ま、<あいつ>は自力でなんとかするだろう。滅多なことが起こるとも思えねえ。まったく、相変わらず人騒がせなこった……』
獅百合がテオの言う人物……おそらくは天から落ち、その衝撃によって霊界と寝子島を繋げる要因ともなった何者かと出会うのは、もう少し先のことだ。
これ以上テオを追究してみてもあまり情報は得られそうにないし、今は何より、眼前の問題へ目を向けるべきだろう。
急な展開。事態も実に逼迫している。
が、事ここに至っては逃げるもかなわない……失敗すれば、寝子島は滅ぶのだ。
「ふふん。楽しくなってきましたね♪
おばけの力、試させてもらいましょうか?」
それでも九夜山にて咆哮する骸の巨躯を見上げながらに、獅百合の胸は躍った。
それに振り返れば、獅百合同様にこの場へ呼び出されたのだろう、仲間たちが居並ぶ。それぞれに個性的なおばけ姿は、何とも頼もしい。
ひとは、もれいびは、ほしびとらは、我らが寝子島のフツウを守り通せるだろうか?
そして天から落ちてきた謎の人物、その正体とは──?
「………………?」
半透明に淡く揺らめきながら、
黒白 滴は彼方から届く声を確かに、聞いた。
「誰か……何かが、今。私を呼んだ?」
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
またホワシナを担当させていただきまして、とっても光栄です~!
吉住 獅百合さん、ガイドへご登場いただきありがとうございました!
ご参加いただける場合は、ガイドのイメージに関わらず、自由なアクションでどうぞ!
このシナリオの概要
ファーストシーズンではクローネ、セカンドシーズンでは絶神と、激しいバトルや困難なミッションを、
華麗にくぐり抜けてきた寝子島の皆さま。
サードシーズンでは、新たな世界、新たな敵、新たな種族が彩る、壮大なお話が展開されます。
当ホワイトシナリオにて、今、その幕が上がります!
幽霊、妖怪、西洋のモンスター、おばけたち!
新たならっかみ!のメインストーリーへ、さあ、みんなで飛びこみましょう!
天界から『ある人物』が落っこちてきたようです。
そしてその衝撃によって、『霊界』と寝子島が繋がってしまったからさあ大変!
寝子島には『おばけ』があふれ出し、暴走する『魔行列車』が縦横無尽に駆け巡る大混乱です。
幸いまだ、一般の人たちにはおばけの存在はバレていないようですが……。
<霊界とは>
死んだ生き物などが暮らす場所。
人や生き物が死ぬと、あの世とこの世を行き来する『魔行列車』に乗り、霊界へ向かいます。
霊界での暮らしは、今のところどんなものか不明。
なお、死んだ人が必ずしも霊界へ行くとは限らないようです。
また霊界は、死者だけでなく、多数の『おばけ』が暮らす世界でもあります。
<おばけとは>
霊界に住むこの世ならぬ者たちの総称。
死んだ人や生き物の幽霊、民話や伝承に語られるような有名な妖怪、西洋のモンスターや、
都市伝説レベルのよくわからないヤツまで、実にいろいろなおばけがいます。
時おり魔行列車に乗ってこの世へやってきますが、基本的には生きている人間には見えず、
触れることもできない……はずなのですが。
<魔行列車とは>
異なる世界同士を繋いで走る列車。
今回は寝子島と霊界を結ぶ路線『寝子島電鉄霊界線』が出現しましたが、
ほかにもたくさんの路線があるのだとか。
以前現れた『冥界行き魔行列車』とも別路線のようです。
霊界線を走る魔行列車は全て「死んだ列車の霊」で、車種はいろいろです。
蒸気機関車だったり、小さな路面電車だったり、リニアモーターカーだったりします。
『寝子島電鉄霊界線』路線図 ※クリックして拡大表示
皆さんは、テオの呼び出しに応じて協力したり、ねこったーを見て駆けつけたり、
知らないうちに現場にいて巻き込まれたりして、関わることになります。
このまま夜が明ければ、魔行列車もおばけたちも寝子島へ留まることになってしまいます。
おばけを捕まえたり大人しくさせて、最寄りの霊界線駅へ停車している列車に乗せて、
霊界へと送り帰しましょう。
おばけには人間に友好的な者もいれば、ところ構わず暴れ回るような凶暴な者もいます。
相手によっては力ずくで対処する必要もあるでしょう。
おばけを列車に接触させれば、勝手に乗車しますので、言うことを聞かないおばけは力ずくで叩き込みましょう。
ちなみに、寝子島のピンチには気付かず、霊界と繋がったおばけな街をのんびり楽しむのもOK。
ゆったり過ごせる、霊界線・花緑青(はなろくしょう)駅(後述)の周辺がオススメです。
おばけになっちゃった!!
霊界と寝子島が繋がった衝撃で、皆さんもまたおばけになってしまいました。
変化は一時的なものですが、おばけの特性や特技を上手く使えば役に立つことでしょう。
以下の中から、自分がなりたいおばけを1つ選んでください。
なおおばけになっても、ろっこんは通常どおり使用可能です。
<変身できるおばけ一覧>
★幽霊:半透明でふわふわ浮いてる。壁もすり抜けられちゃう。
★鴉天狗:背中の翼で空を飛べる。ウチワをひと振りすれば突風が吹く。
★鬼:頭に角が生える。超怪力でどっかーん!
★だいだらぼっち:小山ほどの大きさまで巨大化できる。動きは鈍いけど圧倒的パワー。
★吸血鬼:血を吸ってパワーアップ! 蝙蝠羽で飛んだり霧になったり、技が多彩。
★雪女:冷気をまとって、吹雪を起こしたり、ツララを生やしたり。
★猫又:猫の半獣人。俊敏にひょいひょいひょいっ! 猫と仲良くなれる。
★狼男:狼の半獣人。鋭いツメでズバーッ! ケガをしてもすぐ直る。
★サトリ:人やおばけの心が読める。予期せぬハプニングには弱い。
★化け狸・化け狐:変化の術で、ナンにでも変身できる。油断するとバレちゃうから注意。
★ゾンビ:動く死体。非常にタフでどんな攻撃にも耐えられる。もう死んでるから。
★付喪神:器物の精霊。手足の生えたヤカン、空飛ぶテレビ、などいろいろ。
★豆腐小僧:美味しい豆腐を出せる。とても美味しい。
アクションでできること
以下の【1】~【7】(捕まえるおばけと最寄り駅)から、参加したいパートを1つ選び、
アクションにお書きください。
鵺は、猿の顔、虎の胴体、蛇の尾を持ち、雷を纏って空を飛ぶ、非常に強力なおばけです。
そこらじゅうに稲妻を落としながら、星ヶ丘の周囲を旋回しています。
気性が荒く、近づく者があれば、容赦なく電撃を浴びせてきます。
○登場NPC:吉田 熊吉(だいだらぼっち)「降りてこいっ、このバカタコがっ!」
寝子島を傷つけるおばけに憤慨して立ち上がった熱血先生。
巨大化しています。先生の背中や頭によじのぼれば、攻撃が届くかも?
星ヶ丘地区のステッラ・デッラ・コリーナに絡みついています。
各階ではガラスが割れるなどの被害が出ていて、放置すれば倒壊の恐れもあります。
空を飛んで外から攻撃したり、危険ですがホテル内を登れば直接攻撃を加えることもできるでしょう。
○登場NPC:四十九院 鸞(鴉天狗)「う~ん、ちょっと飲み過ぎたかしらぁ~?」
ホテルのラウンジでお酒を飲んでいたら、巻き込まれました。
割れた窓から侵入した触手に、今にも捕らえられてしまいそうです。
救出すれば、鴉天狗の力で援護してくれるでしょう。
どこからともなく家に入り込み、まるで家人のようにふるまうというヘンなおばけで、
おばけたちの総大将とする説もあるものの、今回現れたのは、飄々としながらも気のいいおじいちゃんです。
囲碁や将棋などの盤上遊戯を好みますが、店内を彩るアナログゲームたちにも興味津々。
どうやら遊んでみたいようです。
いくつかのゲームで遊んであげれば、大人しく列車へ戻ってくれるでしょう。
○登場NPC:三佐倉 千絵(サトリ)「か、変わったお客さまですねえ……」
突然クラン・Gへ訪れた奇妙なお客さんにちょっぴり戸惑いながらも、急遽お店を開けてくれました。
ゲームに誘われれば参戦します。
おばけ化には気づいていないようで、「なんだか今日は冴えてる気がします!」などと言っています。
星幽塔第一階層のサジタリオ城下町では、乗客であるおばけ『フランケンシュタインの怪物』が暴れています。
彼は墓場からゾンビを呼び出し、配下として引き連れ、街の人々を襲っています。
ゾンビたちは非常に数が多く、司令塔であるおばけを無力化しなければ、延々と湧き出し続けます。
また、ゾンビに噛まれた人もゾンビになってしまいます。
どうにかゾンビの群れを切り抜け、フランケンシュタインの怪物のところまでたどり着く必要がありそうです。
なおおばけが現れた影響なのか、城下町のほしびとの中にも、おばけ化している者がいる様子。
○登場NPC:フランチェスカ・D・S(狼男)「我が民には指一本触れさせません!」
兵士を引き連れ、押し寄せるゾンビの群れを撃退しています。
狼耳とふさふさ尻尾が生えた姿が愛らしくて、兵士たちの士気はめっちゃ向上したとかなんとか。
いわゆる『天邪鬼』。イタズラ好きで無邪気な小鬼で、数十匹います。
風船に顔を書いて、細い手足と角が生えたような姿をしています。大きさはバレーボールくらい。
あまんじゃくは人にするりと入り込み、憑依します。
あまんじゃくに憑依されると角が生え、心の中で思っていることが口からダダ漏れになってしまいますが、
その際に発する言葉は、思っていることと逆の意味になります。(好き→嫌い、○○したい→したくない)
誰かに角を触られると、あまんじゃくはぽんっと身体の外に飛び出します。
逃げようとするものの、優しく抱いてあげれば大人しくなるでしょう。
○登場NPC:雛鶴 さゆり(鬼)「えっ、何ですかこれ!? 投げればいいんですか!?」
あまんじゃくを捕まえるのを手伝ってくれます。
でも顔を見ると恥ずかしくって、思わずブン投げちゃう?
鬼のパワーに要注意!
九夜山の山頂付近へ陣取り、徐々に山を下りて街へ向かおうとしています。
動きは鈍いもののとにかく巨大かつ大質量なので、ちょっとやそっとでは止まりません。
霊界線の駅はがしゃどくろの後方にありますので、とにかく大火力をぶつけて後ずさりさせれば、
列車へ押し込むこともできるかもしれません。
○登場NPC:黒白 滴(幽霊)「なぁ~んか、聞こえるんだよねぇ」
幽霊になって、ゆらゆら漂っています。
おばけには驚かず、親しみを感じている様子。
……どこかから、誰か、何かの声が聞こえる……?
寝子島を巡る路線と霊界へ向かう路線の乗り換え駅であり、大きな駅ビルがそびえています。
おばけホテルにおばけレストラン、おばけカフェにおばけシネマ、おばけジムにおばけスパなど、施設も充実!
周辺には危険なおばけもおらず、このあたりならゆっくりと過ごせそうです。
停車中の列車からは、幽霊たちが続々と降り立っています。
もしかしたら、過去に死に別れた家族や友人、恋人など、
大切な誰かとちょっとだけ、再会できるかもしれません。
昔からこのあたりに住み着いているという地縛霊、『餅々(もちもち) きなこ』が、
寝子島の幽霊代表として、霊界からのお客に対応しています。
見た目は幼い少女ながら、古くから寝子島の人々をここで見守ってきたのだとか。
ちなみに、駅前へやってきたちょっと渋めなおじさまが気になっているようで……?
○登場NPC:???「ここが寝子島か、なかなか素敵な所だね! あ、君、娘を知らないかね?」
びしっとスーツを着込んだおじさま。落ち着いた物腰で笑顔が素敵な、とっても魅力的な人物です。
ダンディですが、頭にはアホ毛が一本、ぴょこん。
どうやら天界から、どっひゅーん! と落っこちてきたようですが……。
今のところ、自分がこの騒ぎの原因であるとは気づいていないようで、優雅にお茶をいただいています。
娘を探しているそうです。
○登場NPC:野々 ののこ(豆腐小僧)「おいしいお豆腐召し上がれ~♪」
豆腐小僧になって、みんなにおいしいお豆腐を配っています。
ばっひゅ~ん!
NPCについて
登録済みのキャラクターでしたら大抵は登場可能です。
特定のマスターさんが管理されているキャラクターは、描写が安定しない可能性がありますので、
あらかじめご了承くださいませ。
Xキャラクターも登場可能です。
口調などのキャラクター設定は、アクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
以上になります。
それでは、ご参加お待ちしておりますー!