ひねもすのたり、雲の切れ間に｜リアクション

ひねもすのたり、雲の切れ間に

「こう、『バチコーン★』って感じでな、来たんだよ……、何かが」
「はあ。ところで武道、それ苦しくはないのかい」
　同エリア内。
　武道は先程の吹っ飛ばされた瞬間の状況を月詠に解説していた。その首には何故か巨大なニシキヘビが巻きついている。
　水辺エリア内で飼育されているニシキヘビだが、ふれあい広場の動物たちと同様直接触れて、しかも記念撮影まで出来るのだ。
「ぜーんぜん？　むしろひんやりしててチョーキモチイー！　フゥーッ！！」
「ふうん」
「なんなら月詠ちゃんも巻いてみる？　俺はもう写真撮ってもらったしな」
「いや私は遠慮するよ」
「ええー、そんなこと言わずにさあー、ほれほれ……って、あ？　お、ちょまっ、ぐぇ……し、絞まってる……！」
　自分に巻きついている蛇をほどいて月詠に渡そうとする武道は、その途中で苦しそうな表情になって青ざめる。
「武道っ」
　月詠は言わんこっちゃないとばかりに武道の首のニシキヘビを引き剥がそうと飛び付いた。しかし彼女が力いっぱい引っ張ると、ニシキヘビは思いのほか呆気無くするりとほどけた。
「なに……？」
「なーんちゃって！　ど？　月詠ちゃん引っ掛かったっしょ？」
　苦しそうな表情から一転、武道は満面のしたり顔で月詠におどけて見せた。武道に一杯喰わされたと分かった月詠は、むくれて武道を睨めつける。
「はっはっは。さっきのお返しだぜ！　痛てっ、ちょ、止めっ」
　月詠は可笑しそうに声を上げて笑う武道のスネを無言で蹴りつけた。

　武道と月詠がじゃれあっている脇で、翡翠はガラスの飼育ケースを覗いていた。その中では原色で斑模様の蛙が木片の上で喉を膨らませている。飼育ケースの内部は蛙の生息環境に近いテラリウムが構築されている。
「何を熱心に見ているんだ？」
「わっ修。急に後ろに立たないでよ……」
　一心不乱に蛙たちに視線を注いでいた翡翠は、声をかけられてはじめて背後の修の存在に気が付いた。
「ヤドクガエルか。気に入ったのか、猫村」
「いやまあ、なんとなく。カラフルじゃん」
「ヤドクガエルと言えばその名前の由来は知っているか」
「そりゃあ知ってるよ。猛毒を持ってるから、昔の人がそれを鏃に塗って毒矢にしてたんでしょ？」
　博覧強記の修に負けじと翡翠は自分が持つ知識を披露する。特に張り合おうという気がある訳では無いのだが、修の前ではなんとなく意地を張ってしまう翡翠である。
「そうだな。だが実は人を死に至らしめるような毒を持っているのはヤドクガエルの仲間でも一部だけなんだ。触るだけで危険なものもいれば殆ど無毒のものもいる。しかも毒を持つ種でもその毒は餌にしている昆虫から集めている為に、飼育して繁殖させ餌も毒の無い昆虫を与えていると、毒を持たなくなるらしい」
「へぇー、なんでもかんでも危ないもんだと思ってたよ」
　流石に学ぶことが趣味というだけあって、修の知識は幅広い。翡翠は意地張るのも忘れて素直に感心してしまった。