ひねもすのたり、雲の切れ間に｜リアクション

ひねもすのたり、雲の切れ間に

　一通り猫鳴館の周りをぐるりと回って様子を確かめながら、轟はこれまでに聞いた猫鳴館の様々な噂を思い返していた。
　噂の内容は様々あるが、地下に広大な帝国が広がっているだの、小人や座敷童が棲んでいるだの、実に荒唐無稽なものがほとんどである。
「なんだ、変な噂が出回ってる割にはまともそうな所じゃないか。確かに見た感じかなり古びているみたいだけど……、情緒があると言えないこともないな、うん」
　猫鳴館に関する噂の中でも現実味を帯びた話も少しはある。
「それにしてもどうして廃寮なんて話になってるんだ？」
　それが、猫鳴館廃寮の噂だ。
　猫鳴館は元々寝子島高校附属の学生寮だったが、桜花寮を建てた際に古い猫鳴館は取り壊されることになった。それを当時の学生たちが反対運動を起こして、現在まで取り壊しは中止されている。
　しかし高校側も猫鳴館を正式な寮としては認めておらず、現在猫鳴館の維持は有志の生徒からなる自治会によって主に行われているのだった。
　ただ猫鳴館を利用している生徒は決して少ない数ではなく、事情をよく知らない轟のような者からすれば、学校側が自身の施設に対し不当な待遇をしているように思えるのも仕方の無いことだった。
「もしかしてその妙な噂のせいでそんな話になってるのか？　だったら酷い話だぜ。今も昔もここに楽しく暮らしてる人達がいて、それぞれの大切な思い出が残ってる場所なのに。そんな事実かどうかも分からないような理由で廃寮だなんて、そんなもの俺は正義だとは思えないぜ。……まあ、俺も単なる噂に対して憶測だけでものを言ってるんだけどな。事実を確認しもしないで部外者があーだこーだ言うもんじゃねえよな」
　性分なのか、少々熱くなり過ぎていた轟はふと我に返り照れ臭そうに頭を掻いた。
「よし！　だったらいっちょこの件について調べてみるとすっか！　自分が通う学校の問題でもあることだしな。帰ったら早速調査開始だぜ」
　轟は胸の前で拳と拳を打ち合わせると、自宅へ向かって再び駆け出した。