ひねもすのたり、雲の切れ間に｜リアクション

ひねもすのたり、雲の切れ間に

　朝食を済ませた時子は食器を片づけてしまうと、掃除をするべく身支度を整えた。普段の制服とは違って和装である。動きやすいよう着物の袖はたすきでくくり、頭には白いてぬぐいを巻いている。
「んしょ、っと……」
　時子は庭の物干しに布団をかけると、室内の掃除をし始めた。
　彼女の部屋は日本家屋風の造りになっており、勿論和室である。畳の掃除は洋間のフローリングに比べると少々手間がかかる。しかし時子は慣れた手つきで、まず掃除機を畳の目に沿って丁寧にかけてゆく。
　全体に掃除機をかけ終え、雑巾がけをしようという頃には、大きな音を避けていた鳥たちが数羽ほど集まって来ていた。
「そうですよ、今日はお掃除の日なんです……」
　手を動かしながら時子は鳥との会話も忘れない。
「畳の雑巾がけは、こうしてお湯を固く絞るか、乾いた雑巾を使うのが良いんですよ……。畳は湿気に弱いですからね……」
　そんなことは鳥に話しても仕方ない事ではあるのだが、時子にとっては大好きな鳥たちと会話出来るだけでも楽しいのだ。
「本当ならお酢をちょっとだけ混ぜたお湯で拭きあげると、青々とした畳が維持できるんですけどね……。まだそれほど日に焼けていないので今日は省略です……。お酢の匂いが嫌いなんですか……？　ふうん……」
　学生の部屋とはいえ、時子が住んでいるのは星ヶ丘寮である。一般的なアパートに比べれば相応に広い。ずっと四つん這いになって雑巾がけをしている時子の額に汗がにじむ。ようやくすべての畳を拭きあげた時子は立ち上がって背を反らした。
　埃がたつので開けていた庭への戸を閉めようと近付いた時子は、庭木の枝に１羽、鳥が留ってることに気が付いた。
「あ、ヨタカさん……。おかえりなさい……」
　それは以前とある騒動に時子が巻き込まれた際に『知り合った』夜鷹で、今では時子の側に居付いているようだ。夜行性のため、昼間はこうして休んでいることが多いらしい。
　傍目には木のこぶのようにしか見えないヨタカさんも、時子にはしっかり見えていた。