ひねもすのたり、雲の切れ間に｜リアクション

ひねもすのたり、雲の切れ間に

～これが私の御メイド様・不在編～

「ふう、これでとりあえず今日のお仕事は終わりっと」
　星ヶ丘寮のとある玄関先、ダークブラウンのエプロンドレスを身に着けた女性が呟いた。彼女の名前は檜扇舞華。見ての通りメイドである。
　舞華が仕えるのは旅鴉月詠という、寝子島高校に通う１５歳の女子生徒だ。月詠は今舞華が掃除していた部屋の主であり、同じく月詠に仕えるメイドの姉を加えた３人で一緒に暮らしている。
　掃除用具を片付けるため室内に入ろうとした舞華の前を、見知った人影が通りかかった。
　月詠の友人、八神修である。
　彼がゆったりと漕いでいる自転車のかごには何やら大きなバスケットが収まっている。
「あら、八神さん。おはようございます」
　自分の名前を呼ぶ声に、修はブレーキをかけて振り向いた。
「ああ、旅鴉のメイドの。確か檜扇……」
「舞華です。そんなことより良いのですか？　月詠さんはもうとっくにお出かけになりましたけど。今日は皆さんでお約束があるのでしょう」
「舞華さん。旅鴉はもう出たんですか？　随分早いな……。集合は１０時と聞いているので、恐らく何か別の用事があるか、単なる気まぐれでしょう」
　ちなみに現在の時刻は９時ちょうど。星ヶ丘寮から目的地までは自転車でおおよそ３０分といったところだろう。
「それでは道中お気を付け下さい」
「ありがとうございます。それじゃ」
　修は舞華に目礼すると、再び自転車を漕いで行ってしまった。
「さあてやることはやりましたし、何しようかしら。今日は自宅待機とのお言い付けですから出掛ける訳にもいきませんね」
　月詠が出掛けていなければ身の回りの世話などの仕事には事欠かないのだが、生憎今日彼女はいない。
「んー、何か……何か……。そうだ、ボイストレーニングがてらネコ生でもしようかしらね」
　寝子島アニメーション学院の声優科へ通う現役の学生である舞華は、不定期的にネコネコ動画で生放送を行い、番組名を『きまぐれ寝子ラジ』と題打って日々の活動報告などをしているのだった。
「そうと決まれば早速準備をしましょう」
　そう言って舞華は自室へと戻った。