狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

　旧市街を気ままに散歩していた時、漫歩に異変が起きた。背が縮んだことに気付くと、店舗の窓に自身の姿を映し出す。
「グレーの細身の猫になったのか」
　頭の中の声で事情はわかっていた。楽観的な性格もあって動揺した様子は見られない。
　――まずは滴くんを探してみるかな。
　身軽となった歩は路地に走り込み、見つけたポリバケツを踏み台にして民家の塀に飛び乗った。
　細い足場にバランスを崩すことなく、平地を歩く調子で進んでいく。
　――高いところの方がよく見える。この調子なら意外と簡単に滴くんを見つけられたりしてな。
　歩いていると至る所に猫がいた。日向ぼっこをする猫は少なく、大抵は張り詰めた顔で走っていた。
　――同じ猫なら言葉が通じるかもな。
　都合よく、栗色の小さな猫が走ってきた。情報を広げる為に奔走する瀬川天音だった。
「そこの栗色の猫くん。何をそんなに急いでいるんだ？」
「白猫さんに教えて貰った情報を広めています」
「よかったら俺にも教えてくれないか」
「是非、聞いてください。滴さんの元へ導いてくれる有益な情報になります」
「それは本当か！　俺も探してるところなんだ」
　歩は塀から飛び降りると天音に走り寄った。
　五分と掛からずに情報を伝えた。
「ようは青黒いヤツを倒せば、靄になって滴さんのところへ案内してくれるんだな」
「端的に言えばそうなります。それでは失礼します」
　天音は更に情報を広める為、走り出した。
「あんな姿を目にすると俺も本気になっちゃうじゃんね！」
　歩はしなやかな走りで路地裏を抜けていった。