狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

　いつも通りの三毛猫の姿に三毛谷道哉は、なるほど、と人知れず感想を漏らす。
　目は砂埃の中心を見ていた。
　――猫になった者達が戦っているようだ。私は進んで加勢しようとは思わない。
　目を掛けた者に危害が及ばなければ、それでいい。
　向きを変えて黄橡（きつるばみ）駅へと歩き出す。
　盗撮を糾弾する駅員には全く興味を示さない。道哉はふわふわと浮いている白猫の餅々きなこに関心を寄せた。
「白猫の幽霊になっても、きなこは愛らしい」
「わたしはこどもじゃないんだよ！」
　白い頬を膨らませて怒る。その子供っぽい仕草があまりにも可愛らしく、道哉は飛び付いて頬ずりをした。
「そうだね。きなこは可愛い」
「おとなの、おんなのこだよ！　みちちかくん、おさけくさいよ！」
「いやぁ、飲んでる時に飛ばされてね。ごめんよ」
　再度の頬ずりにきなこは暴れた。
「そんなみちちかくん、おしおきだよ！」
　ポケットからきなこもちを取り出し、道哉に投げ付けた。ひょいと躱すと砂に半ばまでめり込んだ。
「ああ、わたしのきなこもちが！」
　我に返って飛んでいく。きなこもちを拾い上げると、そのまま食べようとした。
「きなこ、砂を払わないと」
「どうしよう」
　泣きそうな顔を道哉に向けた。
「こうすればいい」
　きなこの手にある、きなこもちに向かって息を吹き掛けた。
「きな粉も少しは減るけど、これで食べられるよ」
「ありがとう！」
　喜びが負の感情を一時的に上回り、きなこは笑顔で食べる。
「もちもちだよ！」
「それは良かった」
　道哉は見守るような目で言った。
　――きなこは嫌がると思うが、可愛い容姿は猫になっても変わらないねぇ。
　想いが溢れて三度目の頬ずりとなった。
「みちちかくん、おさけくさい！」
　また怒られて道哉は優しい目をして笑った。