狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

【Ｇ】その他／黒白滴や黒猫サニー
　寝子島高校にいた嘉渡洲稀跡は自身に起きた異変に気付いた。北校舎と南校舎に挟まれた噴水を覗き込むと、白猫の姿が映し出された。動揺する様子は見られず、突き付けられた現実と向き合う。
　――白猫になってしまったようね。このまま、お昼寝という訳にはいかないわね。頭の中に響いた声を信じて行動してみるわ。
　左右に目をやり、まずは一方に向けて歩き出す。
　陽射しが程よい。稀跡の頭が揺れ始める。蛇行して歩くようになった。
　――猫の気持ちがよくわかるわ。昨晩はよく眠れたのに。
　少し強めに頭を振った。眠気を追い出して尚も歩く。
　第一グラウンドの隅の方に小さな石が落ちていた。通り過ぎようとして立ち止まる。
「気になるわ」
　呟いて石に近づいた。右の前脚で転がす。左でも試してみた。尻尾を振って強く転がした。
　瞬間、動きを止めた。
　――ただの砂岩に夢中になるなんて、自分でも信じられないわ。
　気を取り直して歩き出すと、青黒い蝶を見つけた。手の届かない位置を飛んでいる。
　――クロアゲハではないようね。
　蝶の動きを目で追う。僅かながらも上昇してフェンスを越えていった。
「そこの白猫、情報を知っているにゃ？」
　フェンスの向こうにいるキジトラ猫が話し掛けてきた。
「わからないわ。教えてくれる？」
「わかったにゃ。この情報は重要にゃ。倉前と深縹という人間が出所にゃ」
　稀跡はフェンスに身を寄せた。しっかりと耳を傾ける。
「青黒いものは敵にゃ。斃して靄になると黒白のところに逃げ帰るにゃ」
「わかったわ。有益な情報をありがとう」
「幸次に頼まれたにゃ。これから俺は別の猫にも情報を伝えにいくにゃ」
　情報を伝えるとキジトラ猫は走り出した。
「私も」
　使命感を裡に秘めて行動を起こす。

　その後、放送室に踏み込んだ稀跡は最大の音量で周辺に情報を伝えた。人には理解できない猫語ではあったが、猫は一様に反応した。
「わかったにゃ！」
「情報を伝えるにゃ！」
「わたしもがんばるにゃー」
　猫達は得た情報を拡散する為に走り出した。
　稀跡は放送室に立て籠った。多くの猫に伝わることを信じて情報を繰り返し伝えた。
　――黒白さんやサニーのことは他の人に任せるわ。
　喉が枯れるまで孤独な戦いを続けた。