狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

　深い森をミーツェ・Ｍ・フェリスは弾むように歩く。猫の手を模した杖の先端をクルクルと回す。
　――今日の劇も楽しみですにゃ。新作ですにゃー。
　ミーツェは元々が二足歩行の猫である。変化しても見た目が変わらないこともあって、騒動に巻き込まれたことにも気付いていなかった。
　マントを翻して陽気にカラス座の森の中を突き進む。
「楽しみですにゃ。面白そうですにゃ。飲み物も売って欲しいですにゃー」
　目的地に近づくに連れて心の声が漏れ始める。
「なんですにゃ？」
　不穏な音が耳に飛び込んできた。小走りとなって森を抜けると、なんですにゃー！　と声を上げた。
　ステージに役者はいたが劇は行われていなかった。台本が散らばり、劇に使う小道具が破損した状態で打ち捨てられていた。
　アイオ・キャンドライトと喜矢武あいおはピンマイクに口を近づけて、ろっこんで作り出した大勢の観客の声を演じる。荒れた役者達は苛立ちを隠せないまでも、乱暴な行為はほとんど見られなかった。
「なにが原因ですにゃ」
　右手から羽ばたく音がした。出所には何もいない。その下には茶トラ猫のティオレ・ユリウェイスがいた。脇腹の辺りの毛が乱れている。よく見ると切り裂かれたような跡があり、浅いながらも血が滲んでいた。
「大変ですにゃ！」
　杖を掲げた。星の力、癒しの光を使ってティオレの傷口を塞いだ。
「助かるわ」
「ミーツェも一緒に戦いますにゃ。でも、敵の姿が見えないですにゃ」
「羽ばたきが聞こえるわ。ヤツはそこにいる。伸びる影から槍が飛び出すけれど、心配ないわ。立っている位置を少しずらせば簡単に躱せるよ」
「なるほどですにゃ！　せっかくの劇を見れないなんて許せないにゃ！　敵はミーツェがぶちのめしますにゃ！」
「いい覚悟ね。協力して倒すわよ」
　傷が癒えたことでティオレの動きに切れが戻る。素早い動きで敵を翻弄した。
　そこに新手の敵が参戦。黒猫となったフローレンス・アイメルトが魔法を使って小さなゴーレムを創造し、そして命じた。
「私を虐げた者達に鉄拳制裁よ」
　小さなゴーレムは近くにいたミーツェを標的に選んだ。拳を握り、頭部に振り下ろそうとした。
「邪魔ですにゃ！」
　杖が足を払い、小さなゴーレムは前に倒れた。
「ボコボコですにゃ！」
　小さなゴーレムの背中に乗ったミーツェは杖を鈍器のようにして連打した。
「ああ、私の可愛いゴーレムまで、虐げられているわ」
「うるさいですにゃ！　あとであなたもズタボロにするですにゃー！」
「あ、悪魔ね。悪魔に違いないわ」
　フローレンスは逃げ出した。
　横目で見たティオレは、やるわね、と片方の犬歯を覗かせて笑った。