狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

　カフェレストランの騒動を耳にした深縹露草は店内に飛び込む。美しい灰色の猫の姿もあって瞬く間に調理場へ突入した。
　――事態が収束するまで、あと少しのようデース。
　とりもちシートに足を取られた青黒いドーベルマンが転倒。調理台にいた恵御納理沙はアイスピックを咥えた状態で飛び降りた。体重の乗った一撃は易々と喉を貫き、青黒い靄に変えた。
　一頭だけとなったドーベルマンは後ずさる。ハルキ・イエハナは攻める手を休めず、頭部を狙って調理器具を次々と落とした。
　アリサは足元を狙った引っ掻き攻撃で相手の動きを封じる。
　巧はジャブとストレートを繰り出しながら、ワシは眠たいんや、と文句を言いながら打撃を加えた。
　露草は調理場から立ち去ると、店内を駆け抜けて外へ出た。
　――私は黒白さんとサニーさんを探してみましょう。猫に変身した今なら猫の気持ちがよくわかると思うのデース。
　近くにあったポリバケツを踏み台にして民家の塀へ飛び移る。幅は狭いが足を踏み外すことなく、周囲を見ながら歩いた。
　和洋折衷の家の縁側に一匹の猫が丸くなっている。黒猫なので露草は声を掛けた。
「そこで日向ぼっこをしている黒猫さん、名前はサニーですか？」
　黒猫は閉じていた目を薄っすらと開ける。後ろ脚で耳の辺りを頻りに掻いたあとで、違うにゃ、と言った。
「そうですか。サニーという名の黒猫を知りませんか？」
「知らないにゃ。もう眠いにゃ」
　黒猫は目を閉じた。先程と同様に丸くなる。
　――ろっこんを使った方が早いかもしれません。どこか紋章を描けるところは……。
　カフェレストランの斜め前に小さな公園があった。遊具のブランコが見える。反対の位置にはシーソーが設置されていた。
　――砂場があればろっこんを使えるのデース。
　思い付いた露草は走り出した。