狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

　灰毛の猫となった倉前七瀬はカフェレストランの調理場の奥でウォルターの姿を見つけた。上になった柚春を前脚で捕まえていた。仲睦まじく、抱き合っているようにも見える。
　――僕が猫パンチ入れて先生ば正気に戻す必要はなかとですね。
　他のところに目を向けると最後のドーベルマンが崩れ落ちた。近くにはフライパンが落ちていた。調理台の上でハルキが飛び跳ねて喜ぶ。
　背中にアイスピックを突き立てた理沙は疲れてへたり込む。
　アリサは二度と起き上がらないように脚を集中的に攻撃した。
　巧は脇腹に何度もフックを叩き込む。
　ドーベルマンは弱々しい断末魔を上げて青黒い靄となった。
　――勝利したようなので他ば探してみよう。
　店を出ると灰色の猫の深縹露草が走ってきた。
「良いところにいました！　黒白さんとサニーさんの痕跡を見つけたのデース」
「それは本当ですか？」
「もちろんデース。来てくだサーイ」
　先頭で露草が走る。七瀬はすぐ後に続いた。小さな公園に入ると左手奥の砂場を目指す。
「これデース」
　露草は砂場に描いた文様の近くで光る、人間の靴跡と小動物の足跡に手を差し出す。
「これが、その跡ですか」
「その通りデース。私のろっこん『我が紋章は、光り輝く道標』を使って念じました。黒白さんとサニーの残した足跡よ、光れと」
「ここなら僕のろっこんが役立つかもしれんとです」
「それは頼もしい。試してみてくだサーイ」
　露草は後ろに下がる。代わりに七瀬が前に出た。
　靴跡と足跡の間近で、空気を読む、と強く念じた。ろっこんが発動して何もない空間から一冊の黒い本が現れ、パサリと乾いた音を立てて落ちた。
「この場の雰囲気に適した内容が書かれているとです」
「それは期待できますね」
「それでは」
　七瀬は本を開いた。一頁目は言葉の断片で埋め尽くされて解読不能となっていた。二頁目は黒く塗りつぶされていた。
「ダメですね」
「まだ先はありマース」
「次の頁は」
　頁を捲った瞬間、二匹の目は内容に引き寄せられた。

『分離でろろは斃されると靄になる。弱体化したものは滴の元に逃げ帰り、取り込まれることで力を回復する』

　真っ先に露草が喜んだ。
「これは凄い情報ですよ！　分離でろろを倒せば倒すほど、黒白さんの場所がわかるようになりマース！」
「サニーの情報はなかとですが、このことを他の皆にも伝えないと」
「善は急げデース！」
　二匹の猫は他の者に伝えようと走り出した。野良猫の助けも借りて一気に情報を拡散させていった。